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狙われた村 後編
「また奴らが来たぞ。やっぱり親玉も一緒だ」
村人たちが戦々恐々としているところにルナは前に出る。
「心配しないで。私が全員追っ払うから」
「ここはあなただけが頼りです。どうかお気をつけて」
ルナは村人たちの心配に笑顔で答えると一人、盗賊の前に立ちはだかる。
「また性懲りも無く来たのか」
「お前が魔女か?」
盗賊の親玉モーリスが睨みを効かせるが、ルナは平然と言い返す。
「はい、そうです。と言ったら帰るのか?」
「いい度胸してるじゃねえか。上等な獲物をみすみす見逃すか。ここは俺たちの大事な資金源だ。命が欲しけりゃとっとと出て行きな」
「お前らがな」
ルナがそう言うと盗賊は「ふざけるな」と一斉に剣を抜いて襲い掛かって来た。
「氷の魔法『オルガ』」
再び氷の中級魔法で矢のような速さの氷柱を放つと盗賊たちは足元に氷柱が突き刺さり動きを止められる。
その様子を最後尾からミルコは伺っていた。
「もう一度言うが、あの子には手を出さずに引き上げた方がいい」
「この場においてまだそんな事を言いやがるか。お前は邪魔だから引っ込んでいろ」
ミルコはため息をついた。
"あの少女はお前ら全員合わせたよりも強い"
ミルコはひと目みてルナの実力を見定めていた。
そして最後尾からすっと前に出た。
ルナはミルコに向かい氷の中級魔法「オルガ」を放つが、ミルコは瞬時に剣を抜くと十数もの氷柱をあっという間に弾き返した。
「オルガを全て弾き返された!」
魔法を剣だけで弾き返された事はこれまで一度もなかった。
ルナはこの剣さばきを見てこの男が相当な実力の剣士だと直感した。
身構えるルナに男は意表をつく言葉を口にする。
「我が名はミルコ・フォン・ローゼンダールと申します。お嬢様、僭越ながらお助けしましょう」
ミルコの言葉にルナは当然の事ながら盗賊たちも驚きの声を上げる。
「貴様、裏切ったな」
「裏切り? お前たちは俺を仲間だと思っていたのか?」
「何だと?」
「俺はいつでも美女の味方だ。ここではお前たちは悪役でやられ役ってところだ。痛い目に遭わないうちに逃げる事をお勧めするぞ」
「ふざけるな」
盗賊の一人がミルコと名乗った男に斬りかかったが、ミルコの剣が一閃されると盗賊は血飛沫をあげて倒れた。
(強い。。)
ルナはミルコの実力に驚く。
堂々と仲間を裏切る行動もだが、何を考えているのか読めない。
ミルコの剣の実力に盗賊たちは恐れをなして動きが止まった。
ミルコはそれを見ると親玉であるモーリスに狙いを定め、一瞬で距離を詰める。
ミルコの剣がモーリスの顔をとらえると、モーリスは悔しそうに歯軋りする。
「お前、それほどの腕を持っていて隠していたのか」
「俺は飯にありつければいいんでな。お前がここにいるお嬢さんほど美人であれば命懸けで働いたものを」
「ふざけやがって」
「で? ここから出ていくのと死ぬのとどっちがいい」
ミルコが剣でモーリスの頬を撫でると頬から血が滴り落ちる。
「くそ! 覚えてやがれ」
盗賊たちは捨て台詞を残して村から去っていった。
「あいにくと俺は男の顔と名前はすぐに忘れるタチでね。明日には忘れていると思うぜ」
ミルコは剣をしまうとルナの前に立ち、丁重に膝をついてまるで臣下の礼のような形で言葉をかけて来た。
「お嬢様、お怪我はございませんか?」
ミルコの気遣いにルナは答える事なく逆に質問で返した。
「何故あんたは私と戦わなかった? あんたほどの実力なら私を退かせる事も出来たはずだ」
ルナはそう思った。
これほどの実力の剣士には魔法を唱えている暇も隙もない。
ルナをはじめとする魔女たちは強力な魔法を使えるが、唱えるのに数秒ほどの時間を要する。
このミルコの剣と動きの速さではルナが魔法を唱える暇はないであろう。
ミルコが盗賊とともに襲って来たらルナは撤退するしかなくなっていたはずだ。
「あいにくと、私は美女を斬るような趣味は持ちあわせておりませんので」
「あんたの言う事はどこまでが本気でどこまでが冗談なのか」
ルナは呆れていた。そして信用していい人物なのか見定める。
「私は美女に嘘をついた事はありません。さて、せっかくの出会いの場なのですからお名前をお伺いしたいですな。私はミルコと申します」
ルナは名前まで聞いてくるかと呆れたが、別に断る理由もないし、相手も名乗ったので仕方なく答えた。
「私はルナムーン」
「ルナムーン。月の女神のようなその美しい顔に相応しい名前ですな」
月の女神というより月の魔女なんだけどね。とはさすがにルナは突っ込まなかった。
その時であった、人質に囚われていた女性たちが全員村に戻って来たのだ。
「おお、戻って来たか。良かったな」
ミルコが女性たちに声をかけると一人一人がミルコに頭を下げてにお礼を伝える。
「ミルコ様、助けて下さりありがとうございました」
「いや、俺もあいつらとこれ以上つるむのに飽きただけさ」
その様子を見てルナがミルコに問いかける。
「人質の女性たちを助けてくれたのか?」
「ああ。さっきも言った通り、俺は女性の味方なんでね」
ルナはこのミルコという人物を悪い人間ではないと感じていた。
女性に少し。。いや、かなりだらしない印象は拭えないが、剣の実力は本物だし、女性が絡めばという条件付きかも知れないが、信用していい人物ではないだろうか。
「ミルコって言ったね。あなたははキザだけど憎めない人間だ。それにかなりの実力の持ち主。良ければしばらくこの村に残って村人たちを盗賊の手から守ってもらえないだろうか?」
「ほう、美女からのお願いを断るほど俺は無粋じゃないですぞ。どうせ放浪の身、ルナ殿がそうおっしゃるのならばこの身、いつでもお貸し致しましょう。ただし、ルナ殿が俺と一夜をともに。。」
「それはなしで」
全部言い終わらないうちにルナにピシャリと断られてミルコは自分の額を叩く。
「それは残念。せっかく一夜限りのいい夢をルナ殿の胸の内に美しい思い出として残して差し上げようと思いましたものを」
「そんな思い出いりませんから」
「ルナ殿も恥じらいがあってなかなか本心が言えぬと見えますな。ならばここは心の広いところを見せて今回は私めが引き下がり、いつかその心の扉が開く時を待つ事に致しましょう」
いや、恥じらってないし、そんな扉もないから。
と言ったところでミルコには通じないだろう。
キザな上に厚かましいというか、押しが強いというか。。
ルナは「はいはい」とため息をつきながらも、このキザ男に村を任せる事にした。
「ミルコ、村を任せたよ」
「ルナ殿との約束は必ず守りますゆえ、ご心配なく。ルナ殿が私に心を開く日をお待ちしておりますぞ」
さすがのルナもミルコの押しには苦笑いをするしかなかった。
こうしてルナはキザ男ミルコに村を任せて目的地セントレイク王国へと向かう。
しかし魔法が通じない剣士もいるという事をルナは初めて知った。
今後もミルコほどの剣士と敵として出会った時にはどうするか思案しなければと思うのだった。
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