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金星の魔女編 美しい王妃
セントレイク王国には大変美しい王妃がおりました。
その美しさゆえに東洋のチャイナでその美しさゆえに国を滅ぼす元凶となった妲己や楊貴妃のようになるのでは? という噂も流れました。しかし彼女は国民を蔑ろにしたり、国の財源を無駄に使うような事はありませんでした。
彼女は歳を重ねてもその若さと美しさが変わる事がなく、いつまでも若く美しい姿にいつしか周りの人たちもどうなっているのか疑問にに思うようになりました。
まるで歳を取らないような。本当に人間なのかという噂すら流れました。
国王ジェロームもその事については不思議に思いながらもあえて口には出しませんでした。
若く美しい王妃に何も悪い事などない。
むしろ自慢の王妃ではないか。
そんな気持ちからでした。
しかし王妃にはある秘密があったのです。
誰にも知られてはならない秘密が。
☆☆☆
ルナムーンがセントレイク王国に到着したのはカルバノンを出て五日後の事であった。
国の入り口である街へ一歩踏み入れると人々は活気にあふれ、街は賑やかでこの国が平和で裕福である事がわかる。
「今までで一番いい国だな」
ルナは街の活気を見てそう思った。
そして人々はみんなここの王妃は素晴らしいと褒め称える。
とにかく美人な上に外交も内政もこなす実力もあり、この国は彼女で持っているともっぱら評判が高かった。
「へえ。そんなに凄い王妃様なんだ。まあこの街を見ていれば政治が行き届いているのがよくわかるけどね」
ルナはとりあえず食事と今夜の宿を探すために街を歩いた。
大通りには何軒もの食品店が立ち並んでいて、どれも安くて美味しそうだ。
火の上で串刺しの肉がぐるぐるまわっている。
牛のもも肉に塩とハーブを付けて焼いたものらしい。
香ばしい匂いを嗅いでいるだけでお腹が減ってくる。
ルナはさっそく肉の串焼きを買って食べた。
屋台には他にもじゃがいも料理やパンにチーズときのこを挟んで焼いたものなど色々と売っている。
「どれも美味しいものばかり。この国にしばらく滞在してもいいな」
ルナは美味しい食べ物があるだけで幸せなのだ。
「エレナ様、ルナムーンと呼ばれる魔女がこのセントレイクに入国致しました」
王妃エレナは腹心のジャンヌからの報告を受けてすっと立ち上がった。
「ルナムーン。その者を私の前に連れて来てもらえないかな。くれぐれも丁重にね。客人として迎え入れたい」
「承知致しました」
普通であれば魔女を城に招き入れるなど不審に思われるであろう。
だが、ジャンヌは何一つ怪しむ素振りもなく言われた通りにルナを出迎えに向かった。
ルナは屋台でお腹いっぱい食べたあと、今夜の宿を探していたが、突然目の前に馬車が止まるのを見て嫌な予感がした。
「これは、フィリップ王子のところに行ったのと同じような宮廷の馬車。それがこんなところに。。なんだろう嫌な予感がする」
馬車から降りてきたのはルナの予想に反して女性であった。
ショートカットのストロベリーブロンドにエメラルドグリーンの瞳。
宮殿の使いと言ってはいるが、そんな雰囲気を感じさせない明るく人懐こそうな表情の女性であった。
「ルナムーン様とお見受け致しました。私はこの国の王妃であるエレナ様の使い者でございます。エレナ様がぜひあなたにお会いしたいとおっしゃられてまして。ご足労ですが、城までいらして頂けますでしょうか」
「王妃様が私に? 何の用で? 私は王妃様なんて全然知らないのに」
ルナは不審に思ったが、相手が王妃では断ったところでしつこく付きまとわれて最後は縄をかけられても連れていかれるだろう。
手荒な真似はしたくないし、事も荒立てたくない。
それに王妃がなぜ自分を知っているのかも知りたかったので、ルナは城に行くと返答した。
その時にふと感じた。
このジャンヌという女性、魔女だと。
「あなた、魔女だね」
ルナの問いにジャンヌはにこりと笑うだけであった。
すべては城について王妃に対面してから。
そんな雰囲気であった。
馬車の中でも女性はにこにこ笑顔でルナに他愛のない会話をしてくる。
「どこから来たの?」
「この国はどう?」
「街の屋台は美味しいものがたくさんあるでしょう」
そんな話をしているうちに馬車は宮殿に到着した。
「エレナ様、ルナムーン様をお連れ致しました」
「ありがとう」
ルナはジャンヌにどうぞと言われて王室に入り、王妃と対面した。
金髪にアイスブルーの瞳はルナと同じだが、ルナよりも少し年上で大人の雰囲気が漂い、白い肌も印象的である。なにより青いドレスがよく似合う。
これは街の人たちが美しいと口々に噂するのがうなずけるとルナは思った。
「よく来てくれましたね。久しぶりに魔女と出会えて嬉しい」
その言葉を聞いてルナはこの王妃が魔女である事を知った。
「王妃、あなたは魔女なのですね」
「ええ。金星の魔女エレナ。こっちにいるのは私の腹心で彗星の魔女ジャンヌよ」
「ジャンヌです。よろしくお願いします」
「この子、お調子者だけどやる事はしっかりやってくれるから」
「エレナ様、それはないですよ」
「驚いた。私も色んな国を旅してまわっているけど王妃が魔女というのは初めて」
ルナはふと思った。
この国の人たちは王妃が魔女という事を知っているのだろうかと。
「あなたが魔女という事は他の人たちは?」
「知りません。知られたら私は処刑されてしまうでしょう」
「そうだったのですね。。しかしいつまで秘密にしていられるか。魔女の寿命は八百年から千年。歳を取らないのがわかってしまえばバレるのも時間の問題でしょう」
「それです。この国の王も魔女と結婚したなどと知られたらただでは済まないでしょう。私たちは結ばれるべきではなかったのです」
「とは言ってもすでに結婚してしまっている。どうしようもないですよね」
「ええ。なので同じ魔女であるあなたにどうしたものかと相談したがったのです」
「参ったな。。」
そんな事言われてもルナにも妙案があるわけではない。
このまま正体がバレないようにひたすら隠し通すか、いずれバレるのならばと正体を明かして国王の反応を見るかしかないとルナは考えていた。
万一にも処刑などという流れになったときには一緒にこの国から逃げ出せばいい。
「この国では魔女に対する処遇はどうなっているんですか?」
「原則は処刑となっているけど、私がこの国に来てから私たち以外に魔女が現れた事がないんでね。あなたが初めてだから」
「処刑か。。魔女狩りなんてなくなればいいのに」
「私がその法を変えてみせる。魔女だからと言って話もせずに処刑なんてされたらいずれ魔女と人間の間に争いが起きる」
「法を変える。そんな事が出来るの?」
「ある程度の法を作って民衆を従わせる事なら十分に出来るわ。ただ、国家レベルの大きな法案については国王の承諾が必要なの。だから国王を説得しないとダメというわけ」
「最終的な決定権は国王なんですね」
しかし、この話を陰で聞いていた人物がいた。
「ふふふ。聞いたぞ。これは国が根底から覆るほどの大事件になる」
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