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キザ男再び
「その声は。。」
ルナは聞き覚えのある声に霹靂とした。
突然の来訪者はミルコ・フォン・ローゼンダール。
前の村でルナが出会ったキザ男である。
「あんた、どうしてここに?」
「おお、麗しのルナムーン殿。あなたの美しさはどんな宝石よりも輝いております。いつ私への愛の扉を開けて頂けるのか一日千秋の思いで参りました」
「厳重に鍵を掛けたから五百年は開かないな」
「一日の道中をかけてルナ殿に会いに来たのにその言葉は少し冷たいですな。心に氷の魔法でもかけられたのかと思いましたぞ」
〔あー面倒くさい。。〕
ルナは頭を掻いた。
「ルナ殿への愛の告白は少しばかり待ってもらうとして、そちらにいらっしゃるルナ殿に負けぬ美女はエレナ殿ですな。セントレイクが大変な事になっていますぞ」
「大変な事? 何があったのです?」
「暴動が各地で起きている。原因はあなたがいなくなったからです。あなたは自分が思っているよりもはるかに民衆の心を惹きつけていたのです」
「どういう事なのか詳しく聞かせてもらえますか」
ミルコは手短に要点だけをかいつまんで三人にセントレイクの現状を伝えた。
「俺はたまたまセントレイクに用があって来たところ、この騒ぎに遭遇したんで街の人たちや宮殿の貴族と思われる人間から話を聞き出し、王妃が魔女だという事と逃げたのは三人と聞いた時にはもしやルナ殿が絡んでいるのかと思いましてね。
それでこの事をルナ殿に伝えるために馬を飛ばしてここへ来たというわけです。愛の力は素晴らしい、ルナ殿がどの道を通って行ったかおおよその検討はつきましたから」
ルナはげっそりする。
「あんたは元盗賊の手下だったから、宮殿から私たちが逃亡したと聞いて自分ならこのルートを通って行くって予測して来たんでしょ。最初は私たちを捕らえに来た兵士かと思ったよ」
「ここでルナ殿たち三人を捕らえて国王に差し出せば金貨十万ギルド以上は報酬として貰えるでしょうな。だが、俺という人間はどうも利口者にはなれなくてね。
女性を、それもとびきりの美女を捕らえて売るなど出来ない性分でね。それがこんな貧乏生活をしている原因なのかもしれませんな」
「あんた女好きだけど、根は意外に真面目なんだね」
ルナはミルコがキザでふざけているように見えても信頼出来ると感じたのはそこだったのかなと思うのだった。
ウザい事を除けば。
ルナとミルコの会話を聞いていた二人がこの人は誰? と言いたげな表情だったのでルナがあらためて紹介する。
「エレナ、ジャンヌ。この男はミルコって言ってね。女にはだらしないけど、実力は間違いないから。キザな誘い文句にだけ気をつければ心強い味方だよ」
「ふふ。ルナ殿の愛ある褒め言葉。ありがたく受け取りましたぞ」
「だから愛なんてないっての!」
「お二人とも仲がいいんですね」
ジャンヌの言葉にルナはカーッと頭に血がのぼってくるのを感じた。
無論、照れではなく怒りからだ。
「よくない! どこをどう見たらそうなる」
その時、ミルコの目が真剣になる。
ふざけているようでも彼は超一流の剣士である。
追っ手の気配に気がついてルナに声をかけた。
「ルナ殿。愛を語り尽くそうと思いましたが、そうのんびりしていられないようですな」
ミルコの視線の先に国王が差し向けたと思われる騎兵部隊がこちらに向かってくるのが見えた。
「ミルコ、ここは私たちで抑えよう」
「承知した。エレナ殿とジャンヌ殿はここに控えていて下され」
「しかし、相手は百人近い大軍。二人だけで大丈夫なの?」
「これくらい跳ね除けられぬようでは剣士は務まりません。ましてやルナ殿の婿ともなれば」
「ならなくて結構です! いくよ」
ルナとミルコは追っ手を追撃するために百人もの兵士の前に出て行く。
「見つけたぞ! 捕らえよ」
兵隊長の号令に兵士たちが一斉にルナとミルコに剣を抜いて襲いかかる。
しかし、兵士たちは二人の力を知らなさすぎた。
「氷の魔法『オアロ』」
氷の結晶を作り十数人を一度に身動き取れなくするルナの魔法である。
この氷の魔法で先陣の兵士たちは身動きが取れなくなる。
そこへミルコが斬りかかる。
「このミルコの前に立ちはだかる男どもはすべて斬り捨てる」
ミルコの剣が一閃されると兵士たちが次々と倒れていく。
ルナとミルコの見事な連携である。
「今、『男どもは』って言った? じゃあ女だったらどうするの?」
「無論、俺のメイドなり助手になってもらうから連れて帰る」
「ただの変態だ」
「いやいや、女性を大事にするのはいい事ですぞ。ルナ殿は特に大事にしますゆえ、ご安心を」
「私があんたのメイドになるってか? 想像しただけで鳥肌が立つわ」
二人は戦いながらそんな軽口を叩いていられるほど余裕であった。
百人いた兵士たちはすでに半数近くが倒されており、残った兵士は大半が戦意喪失状態であった。
「これ以上まだやるのなら相手にしてやるが、無駄に命を捨てる事もあるまい。さっさと引き上げるんだな」
ミルコの恫喝に兵士たちは一斉に退却した。
「エレナ様。あの二人、相当強いですよ」
「ええ。頼もしい限りね」
この戦いを見ていたエレナとジャンヌは二人の強さを頼もしく感じていた。
「私は攻撃系の魔法は使えない。こんな時に戦えないなんて無力ね」
「エレナ様には癒しの魔法があるではありませんか。必ずエレナ様の力が必要になる時が来ますよ」
エレナは回復魔法専属で、ルナのように相手を攻撃する魔法は使えない。
そしてジャンヌも魔法が使えるのだが、彼女が魔法を使うのはエレナと自分が窮地に立たされた時だけと決めている。
「ルナ殿、一人だけ生かしておきました。色々と聞きたい事があるんでね」
「あんた、変態だけどそういうところは頼りになるんだよね」
ルナに何を言われてもミルコは気にする様子もなく捕えた兵士に尋問する。
「おい、エレナ王妃の追跡命令は誰に出された?」
「エンリコ様です」
それを聞いてエレナとジャンヌはなるほどと納得した表情であった。
「そのエンリコってどんな人物なの?」
ルナの問いにジャンヌが答える。
「国王の甥にあたる人物で権力に媚びへつらうタイプの人間だね。その一方で気に入らない人間を排除するために権力を濫用している。エレナ様も何度か時期国王候補から降ろすよう言ったんだけど、国王は騙されているからまったくダメ。
あの男は以前から私たちを気に入らないみたいだったから、もしかしたらエンリコが私たちの会話を盗み聞きしていてこれ幸いと私たちを消しに来たのかも知れないね」
「ならばこちらから乗り込んでそのエンリコを倒してしまえばいい。私がその役を引き受けましょう。美女の悩ましい姿を見て救いの手を差し伸べぬわけにはまいりませんからな」
「ねえ、ルナ。この人確かに腕は立つけどそれ以外はただの女好きなんじゃ?」
「その通りよ。腕を見込んで味方にしているだけ。この人から剣技を取ったらただの変態だから」
ジャンヌとルナがそんな会話をしているのをよそにエレナはミルコに近づいていく。
「それが可能であればお願いしたい。私は別に王妃の座も宮殿の生活も惜しくもなんともない。だけどこちらが一方的に悪者にされた状況でこの国を去るのは心残り。せめてエンリコに一矢報いて人々の誤解を解いてから去りたい」
「お任せ下さい。このミルコ、美女との約束は必ず守りますゆえに」
「それ、私にも言ったよね」
「ルナ殿も美人ですから」
「はいはい」
ルナはミルコのキザにも慣れて来たので適当にかわす。そして自分も一緒に行くと伝える。
「ミルコ、私も一緒に行くよ。このままエレナたちをこの国から去らせてはならないと思っている。民衆にそれほどの人気があるエレナはやっぱりこの国に残るべき。その甥っ子さえいなくなればいいのなら話は簡単だからね」
「ルナが行くなら私たちも一緒に行くわ。これは元々私たちの問題。二人だけを行かせるわけにはいかない」
「エレナ様の言う通り。みんなで行こう」
「エレナ、ジャンヌ。。わかった、二人がそういうならみんなで行こう」
「ほう、美女たちに囲まれて悪党退治とは乙なものですな」
「ここにいる誰もあんたに気はないから」
こうしてルナたち四人は再びセントレイクの宮殿に向かう事となった。
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