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これは私、柊文が中学生だった頃の話。
『消しゴムカバーの下に青ペンで好きな人の名前を書いてバレないように使い切る』
恋愛成就のおまじないとして地域によって違いがあるかもだけど……とりあえず私の地元ではそうだった。
当時からあまり流行に敏感でなかった私も、クラスの女子に勧められお試しでやってみる事にした。まぁ、お試しとは言いつつも実際は藁に縋る思いだったのだけれど。
おまじないを始めて一ヶ月。消しゴムが三割くらい擦り減った頃。移動教室から戻るとき、私は間抜けにも廊下で消しゴムを落としてしまった。
教室についてからそれに気づき、今から探せばバレないよね?と考えた私が廊下に出ようとした瞬間。隣からケラケラと笑う声。
「深山ー、お前そんな可愛い消しゴム使ってんのかよ」
「……は?」
不機嫌そうな彼の声に私は泣きそうだった。なんでよりによって深山くんにバレちゃったのか。そして何より自分の初恋がこんな形で終わるって考えただけで胸を締め付けられるような痛みが走った。
けど、そんな私の不安は彼の一言で容易く吹き飛んだ。
「あー、この消しゴム妹から貰ったんだけどやっぱ俺には可愛すぎるか……。そうだ、柊これいるか?」
「あ、ありがとう」
そんなやりとりをすると、彼は「やべぇ……パン売り切れちまう」なんて言いながら友人と購買に駆けて行った。
※ ※ ※
放課後。
もう彼にバレてしまってる以上おまじないの効果は無いし、何よりこのままモヤモヤした気持ちでいるのがなんとなく気持ち悪かった私は意を決して彼に聞く事にした。
「ねぇ、深山くん。なんでさっきは庇ってくれたの?」
「え……いや、なんとなくだなんとなく」
「もしかして、深山くんもおまじないやってる……とか?」
その反応が隠し事をする子供みたいで、私がなんとなくカマをかけると。
「そうだよ……悪ぃか?」
頬を紅潮させながら、そう言って投げ渡された消しゴムには『柊』と書かれていた。
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