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「冷たい返事ねぇ。アンタ、小さい頃はよくあそこに遊びに行ってたっていうのに」
「そうだっけ」
「そうよー。小学生ぐらいの頃、クラスの男の子達と、秘密基地がどうだなんたらだーって、アンタ毎日のように遊びに行ってたじゃない。思い出の場所ぽかったから教えてあげたのに」
「あんなに毎日通ってた場所を忘れちゃうなんて。我が息子ながらとんだ薄情者ねー」と母が呆れたように頬に手をあてながら言う。「誰に似たのかしらね」なんて言いながら、ちらりとその目を隣に座る父に向ける事も忘れない。
つい数日前、結婚記念日を祝うのを忘れて母を激怒させ、「ど、どうしよう、透」と泣き声混じりで俺に電話をかけてきた父が、「そ、そうだな……」と気まずそうに返しながら茶を飲んだ。
そんな光景を前に苦笑しつつ、俺は考える。
(『秘密基地』、そういえばそんなものもあったなー)
小学生の頃、なんて一体10何年前の話だろう。そんな事を考えながら、頭の中で今の自分の年齢から小学生ぐらいの年をひいて数えてみる。
えっと、今が26だから、12歳分ぐらい引くのか? いやでも、秘密基地なんて、そんなしょーもない事をするのって、たぶんもっと下の年齢だよな。
6歳……、は下すぎか?
7、8歳とか、そんぐらいかな。だとすると――……。
『いいか。次、ここに戻ってくる時は、世界をアッと言わせるような、ビックな奴らになった時だ。また音楽で! ここに戻ってこようぜ!』
「あ」
ふっ、と思い出した光景に俺の声が飛び出した。
「「あ?」」と母と父が、不思議そうにこちらを振り返った。
「やっべ、忘れてた――」
そう、俺が呟くのと、じゃがいもの山を探り終えた俺の箸が、ようやく見つけた肉を掴みそこねてテーブルの上に落としたのは、同じタイミングだった。
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