1章 秘密基地と大人

1/25
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/365ページ

1章 秘密基地と大人

「うっわ。本当だ。工事中の看板かかってんじゃん」  深夜0時。  夏独特の生ぬるい夜の空気と深夜特有の静けさが満ちる住宅街。  明かりのまばらな家々が建ち並ぶその道を、自分の中の記憶だけを頼りに歩いてやってきた俺の前に現れたのは、『工事中』とどでかく書かれた青白い看板を携えた思い出の地だった。 「えっと、なになに。建設計画、駐車場。工事期間8月12日から9月末。用途、月謝駐車場。敷地面積、10.880.71㎡……。へぇ。この空き地の面積ってそんな感じだったんだ」 「まぁ、いうて広いのか狭いのかよくわからねぇけど」言いながら、『工事中』の看板の横に立つもうひとつの看板、『建設計画』と書かれた白い看板を眺める。  こういうのって、これから工事するぞーっていう色んな土地に置いてあるけど、正直、敷地面積がうんたら、建築面積がうんたらいって言われても想像つかないよね。  どうせ置くなら、完成予想図でも載せておいてくれた方が、一般民としてはありがたいものである。  まぁだからって、それを見たところで思う事と言えばきっと、「ふぅん」とか「へぇ」とか、今とあんまり変わらない事なんだろうけど。 「いやー。それにしてもほんっと、昔となんにも変わってねぇなぁ、ここ」 「10年以上経つのに、こんなに何も変わってないってのも珍しくね?」そう誰に同意を求めるわけでもなく呟きながら、俺は目の前に広がる思い出の地を見渡す。  そこは、言うなれば『草地』の一言に尽きる場所だった。  家と家の間に、ぽっかりと広がる空き地。  周囲をコンクリートブロックの塀で囲まれているせいだろうか。まるである日突然、そこにあった筈の建物がまるごと一件消えてしまったかのような、空白みを感じる場所だ。  そして、そんな空白を埋め尽くさんとばかりに、青々しく生い茂る背の高い雑草達。  明日には刈られる身とは知らずに、夏の温風にも近しい風に吹かれてさわりさわりと揺れているそれを眺めながら、俺は、う~ん、とこの光景を毎日見ていたあの頃を思い返す。  ――はたして、そこを『秘密基地』にしようと言い出したのは、誰だったか。
/365ページ

最初のコメントを投稿しよう!