1章 秘密基地と大人

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思い立ったが吉だ、と俺はその場にしゃがみ込んだ。  ガサッ! と大きくゆれた草達が、自分の身体や顔にペチペチと叩いていくが、気にはせず、ここを秘密基地と称した頃の自分ぐらいのものだと思われる目線の高さで周囲を見渡した。 『子どもの目線』。職業柄、普段からよく耳にする言葉である。 (まぁ、ここに時は中1だった筈だし。小3の頃よりは、大分身長も伸びてたとは思うけどさ)  にしても、せっかくの休みの日にまで仕事の癖が出るとか。俺ももう本当立派な社会人だよなー、と呆れかけるが、今回ばかりはそれが功を為したといえる。 「お。あった、あった」  草地をわけて見つけた、コンクリートブロックの壁。その一部に、白い『☓』字の傷跡がつけられた場所があった。自然にできたような軽い傷跡ではなく、チョークを使って綺麗に書き刻まれたかのような、まっすぐで、大きく、そして太い白い傷跡。  一部欠けてしまっている部分もあるが、それでもまぁ、それが☓以外の何かに見えるほどの大きな障害にはなっていない。これだ、と直感的に感じ、その表面をなぞる。  在りし日の俺と仲間達がつけた傷跡。  それを指でなぞりながら、ツーッと視線を、印が書かれたブロックの前の土へと向ける。 「さて。やりますかね」  忘れていた『思い出』の掘り起こしを――。  そう心の中で呟いて、俺は手にしていた袋からスコップを取り出した。
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