俺の選ぶ居場所

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「大丈夫って言ったのに、嘘つき!」  俺は中庭に面したサロンで、殿下に詰め寄っていた。昨夜初めて抱かれて、先ほどやっと目が覚めたばかりだ。体中の関節が痛いし、腰はずしんと重い。ベッドから降りようとしたら、足に力が入らずにへたり込んでしまった。  何とか足腰を叱咤して、殿下のもとにやってきたのだ。 「何を怒ってるんだ」 「浄化しないって、言ったじゃないですか」 「約束通り、そなたはちゃんと生きてるし、気持ちよさそうに喘いで、何度も達していたでは無いか。わたしは一度だけで我慢したのだぞ」  昨日の乱れた自分の姿を思い出し、カッと顔が熱くなる。 「達し⁈ そ、そういう恥ずかしいこと言わないでください」 「じゃあ、何が問題だ」 「だから、浄化されてるんですよ! ほら、ここ見て。ここの内側の一本、白くなってる。これ風切り羽根です、絶対浄化されてる」  バサッと羽を出し、ここだと指をさす。 「まぁ……そなたの中に放ったしな。だが、何か問題あるか?」 「あります!」 「具体的には何だ」  殿下は煽るように、ほれほれ言ってみろと催促してくる。 「ええと、浄化されたら死……んでないな、俺」 「そうだな。ピンピンしてるな」 「あ、魔族じゃなくなっちゃう」 「魔界に帰るつもりはないのだから、別に構わないだろう」 「えっ……そうかもしれないけど、でも、ええと……」  必死に考えても、浄化されて困ることが思い浮かばない。  あれ、俺、ゆっくりなら浄化されてもいいのかな。 「そなたの中に精を放ち続ければ、いずれ純白の翼になるということか。黒もよいが、白もアルに似合いそうだ」  ニヤリと殿下が俺の羽を見つめてくる。その熱っぽい視線に、ゾクッと寒気が走り、すぐに羽をしまった。やる気だ、やる気になってしまったぞ、これは。 「俺、黒が気に入ってるんで、これ以上頑張ってもらわなくていいかなぁって。あと、俺の体力的にも無理です!」  俺は慌てて逃げ出す。  背後で殿下が笑ってる。何笑ってるんだよと思ったが、通りがかったメイドが驚いていたから、きっとレアな殿下の姿なんだろう。  そっか、殿下はあんな風に気軽に笑えなかったのか。でも、今は笑ってる。  殿下のあの笑顔を俺が引き出せているのなら、魔族だろうと俺はここに居て良いんだ。いや、魔族とか人間とか関係ない。殿下を幸せにするために、俺が幸せになるために、ここに居るんだ。 「殿下!」  俺は逃げ出す足を止めて、振り返る。少し離れた場所で、殿下が俺を見ていた。 「俺、殿下の聖女になるよ!」  大声で宣言したのだった。 (了)
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