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俺、聖女じゃないです
魔界の黒い森の奥、先代魔王の霊廟前を、俺は今日も箒で掃いていた。ギギャーと、魔鳥が鳴きながら灰色の空を旋回している。
「のどかだなぁ……うん、良いことだ」
魔鳥を見上げて、少し羨ましくなる。あんな風に飛べたら、魔族としてもう一度仕事が出来るかもしれないのに。
俺の羽はコウモリの様な形をしているが、ずっとしまわれたままだ。俺はもう満足に空を飛ぶことは出来ないから。悲しいことに少し浮くくらいしか出来ないのだ。羽がないから容姿だけで言えば黒髪の小柄な人間に見える。おかげで王都にいるときは、よく食われそうになったものだ。
俺は落ちこぼれの魔族ゆえに、王都から左遷されてここにいる。初仕事でヘマをしてしまい、一人っきりで霊廟を見守るという仕事をしているのだ。見守るだけだから、仕事的には本当にやることがない。要は閑職なのだ。掃除も別にやれと言われているわけでは無いのだが、やることがなさ過ぎて毎日行っている。おかげで霊廟の中も外もピカピカだ。
「たまに嫌味を言いにくる奴らがいなければ、もっと良いのに」
いや、嫌がらせでも誰か来てくれるだけマシだろうか。一人っきりだと、いくら楽観的な性格とはいえ気が滅入ってしまうから。
思わずため息をついた、その時だった。
足下に魔法陣が浮かび上がったのだ。
「はえ? ちょっと、何これ。足が引っ張られ――――」
***
ドスンと地面に落ちる音と共に、受け身を取った背中から尻に掛けて痛みが走る。苦痛にあえぎながらも、ゆっくりと目を開けると、そこには見知らぬ景色が広がっていた。
魔界の森の中にいたはずだ。でも、俺が今転がっているのは建物の中で、魔界には珍しい真っ白の壁、真っ白な床、真っ白な天井……え、本当にここどこ?
「大丈夫か、我が聖女よ」
頭上から男の声がしたが、その内容にざっと血の気が引く。
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