72人が本棚に入れています
本棚に追加
『俺が……あいつの、動きを止めます。とどめを』
耳元に口を寄せて、まるで頬にキスを贈るような仕草をしながらささやく。ダヌシェに気付かれないように。
殿下はぎょっとしたように目を見開き、小さく首を横に振った。だが、俺が目をそらさないので、覚悟が伝わったようだ。諦めたように「まかせろ」と口だけを動かした。
俺は痛みに涙が出そうになりながら、というか勝手に涙が出てくるけど、必死で立ち上がった。
「殿下……俺、死にたくない。だから……ごめん、なさい」
俺は激痛を我慢しながら、殿下に向かって頭を下げた。そして、ふらふらとした足取りでダヌシェに近づいていく。
「ダヌシェ、俺、言うこと聞くから。助けてよ」
「ふん、今さら……だけど、まあいいか。来いよ、特等席であいつを殺すところを見せてや――――?」
ダヌシェの動きが止まった。
かかった!
ダヌシェの気が緩んだ一瞬に、全神経を集中して、針で射貫くように魅了をかけたのだ。火事場の馬鹿力を舐めんな!
「終わりだな、魔族の娘」
殿下が光の剣を構え、振り下ろした。
一気に閃光が強くなり、目を開けていられないくらいだ。
「くっそ! アル――――」
断末魔の叫び声が響く。
気がつくとダヌシェの作り出した空間は消え去って、元の部屋に戻っていた。ほっとした瞬間、俺は床に倒れ込む。
「アル!」
「殿下……ダヌシェは? 死んだの?」
「空間が元に戻っているから、致命傷は与えたと思う。生きていたとしても、相当弱体化して、魔界には戻れないだろう」
嫌な奴だし、会いたいとも思わないけれど、仲間であったのは事実。死んでて欲しいのか、生きてて欲しいのか、自分でもよく分からない。
「ん? 殿下、魔界に帰れないって……どうして、分かるんです?」
最初のコメントを投稿しよう!