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「魔界の入り口は、人間が間違って入り込まないように、魔力が無ければ見えないし通過も出来ない造りになっていると聞いた。王族であれば、それくらいは教養として皆知っている」
知っているんだ。
「そっか……うっ」
身じろぎした途端に、背中の切り傷が痛んだ。
俺って、飛べなくなる宿命なのかな。きっと、羽を出すことすらもう出来ないだろう。どうせ飛べないのなら、羽を出せない方が諦めも付くか。うん、そうだな、そう思おう。
危機が去り、ほっとしたせいか、猛烈に痛みが増してきた。呼吸も浅くなり、頭の中も痛みに支配されて朦朧とする。
「アル、傷を神力で治癒する。浄化しないように気をつけるから、お前は安心して休め」
殿下の声に、俺のまぶたはゆっくりと閉じていく。
浄化しないように気をつけてくれるっていうくらいだから、やっぱりいつでも浄化出来たんだな、俺のこと。そんな風に思いながら、俺の意識は沈んでいくのだった。
***
「エヴァルド殿下! ちょっと待って。俺まだ心の準備が!」
俺がベッドの上で泣き言をいうと、殿下の動きが止まった。だが、すぐに俺に覆い被さろうとしてくる。
「え、なんで、待ってくれるんじゃないの?」
「少し待ってやっただろう」
「短すぎ!」
俺は四つん這いになって殿下の下から這い出そうとする。
「アル、往生際が悪いぞ。もう背中の怪我は完治して、立派な羽も出せるようになったというのに」
殿下の手が、俺の肩甲骨のあたりを優しく撫でてきた。その感触に、ぴくっと体が跳ねる。
ダヌシェに操られて、殿下の剣を背中で受けた。殿下がとっさに剣を引こうとしたおかげで、致命傷になるような深い傷ではなかったようだ。だが、理由はどうあれ自分が傷つけたのだと、殿下は何度も謝ってくれた。そして、献身的に治療してくれて、今は完全に健康体だ。
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