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むしろ、動かせなかったポンコツな羽が進化して、飛べるようになってしまった。
「殿下……そこ、触らないで」
四つん這いの姿勢のまま、俺はぷるぷると震える。
「まだ痛むか?」
「ち、ちがう……その、羽の付け根は……くすぐったい」
「それは良いことを聞いた」
殿下の声と共に、柔らかい唇の感触が服越しに降ってきた。しかも啄むように何度も何度も。肩甲骨あたりから、甘い震えが広がっていく。
「あ……っだめぇ!」
――――バサァ
ハラハラと小さな漆黒の羽根達がベッドの上に散る。
「あぁ、見事な翼だな。昔の羽も可愛らしかったが、こちらは美しい」
殿下がうっとりと、俺の新しい羽に触れる。だから、触らないで。出来たてほやほやで敏感なんだ。
そう、俺のポンコツだった羽は何故か進化したのだ。元はコウモリの羽のような形をしていたのだが、殿下に神力で背中の傷を治療されたら、何故か天使の翼のような形になってしまった。当然、色は白でなく黒なのだが。
「美しいっていいますけど、殿下は、驚かないんですか?」
俺は羽を殿下から守るように、体ごと振り返った。
「形態が変化することは、魔族ならたまにあるだろう。魔力が高くなると、角が生えたり、尻尾が生えたり。その一種かと思っただけだ」
「でもこんな形の羽、淫魔で持っている奴いないですよ。まるで高位魔族のルシフェル様のような羽です」
殿下は少し考えるような間の後、口を開いた。
「堕天使か……。なぁアル、知っているか。羽を持つ魔族は、体を構成する因子に天使の要素を持っていると。魔族には天から堕ちたものも多いからな。羽は天使の名残だそうだ」
魔族の羽が、天使の名残だなんて、そんなことあり得るのだろうか。
「聞いたことないです。でも、本当に?」
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