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「ラウル神国に伝わる昔話だ。でもアルを見ていると、本当なのだと思う。そなたはきっと、天使の要素の影響を強く受けすぎている。だから、魔族なのに人間を助けようとするのだ」
殿下が喜んでいるような困っているような、複雑な表情を浮かべた。
「……殿下? 俺は殿下だから助けようとしたんですよ」
「違う。ファビオラもかばい、その侍女も助けたであろう。それに、名も知らぬ子どもであったとしても、そなたは助けた」
殿下が真っ直ぐに俺を見つめてきた。
子どもを助けた、と言ったか? 俺は落ちこぼれだったから、人間界に出てきたのは初仕事の時と、殿下に召喚された今だけ。そして、子どもを助けたのは初仕事のとき。でも、何故それを知っているんだ。
「アルは、十年前に炎の中から子どもを助けただろう。あの子どもは、俺の身代わりにされたセドリックなんだ」
「えぇ! あれセドリックだったの?」
ちょっと予想外過ぎて、頭が付いていかない。
「で、でも、あれから十年も経ってな……そうだ、人間界の方が時間の進みが早いんだった」
そりゃセドリックも成長しているはずだ。
「慌てるアルは可愛いな」
微笑ましいと言わんばかりの表情で見つめられ、ぐっと押し黙る。
「わたしは十年前のあの日、セドリックがいないことに気付いた。わたしを守るために、侍従がセドリックを身代わりにしたのだと。だから、無理やり居場所を吐かせて駆けつけたが、もう城から火の手があがっていたんだ。なんとしてもセドリックを見つけ出そうと探し回っていたときに、セドリックを抱きしめて煙の中から飛び出てきた魔族を見つけた。魔族だと一目で分かるのに、子どもを慈しむように抱きかかえる姿は、まるで天使のように見えたんだ」
ゆっくりと噛みしめるように殿下は続けた。
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