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「魔族は敵だ、忌み嫌うべき存在だと思って来た。だが、本当にそうなのか? 人間だって見苦しい争いは絶えないし、肉親であろうが平気で命を狙ってくる。かと思えば、魔族であっても人間を助けるものもいる。だから、わたしは思ったのだ。種族など関係ないのだと。どんな生まれのものでも、それを理由に決めつけてはいけない。目の前のその者を見て、判断すべきだと」
そうか。だから殿下は魔族でも何でも関係ないって言ってくれたんだ。
「裏切り者は今までの縁など無視して容赦なく処刑したし、口だけですり寄ってくるものも排除した。おかげで冷徹だの、残忍だの言われたが、わたしは正しいことをしたと思っているから後悔はない」
殿下の言葉に、俺は泣きそうになった。
「俺も! 俺も、魔界でいろいろ言われたんです。でも、あのとき、子どもを助けたいと思ったから助けた。それを後悔はしてないはずだったけど、今、殿下の言ったことを聞いて、俺、自分が間違ってなかったんだって、嬉しい」
「アル」
名前を呼ばれて、顔を上げた。殿下の手が俺の頬に触れ、そっと目元を拭う。知らぬ間に泣いていたらしい。
「エヴァルド殿下」
俺も名前を呼ぶ。
殿下の綺麗な顔がだんだんと近づいてきて、俺は気恥ずかしくて目を閉じた。
そして、チュッと、軽く唇が合わさって離れた。それだけなのに、体中に歓喜が満ちあふれる。もっと欲しくて、俺から唇を差し出すと、がぶりと強く唇を合わせてきた。さっきの軽やかさとは真逆の、強引で喰われてしまいそうな情熱的な口づけ。
「んぅ、はぁ……殿下……」
慣れない俺を思いやってか、ときどき唇を離してくれる。その間に俺は息を吸うのだけれど、こらえきれない声も漏れてしまって恥ずかしい。
「アル、好きだ。一生、わたしの側にいて欲しい」
「殿下……」
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