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魔族なのにいいの、と問い返しそうになった。だが、さっきの殿下の話を聞いておいて、その問いはおかしい。殿下は『俺』を見て、側にいて欲しいと言ってくれたのだから。
「わたしは聖女召喚のとき、そなたが来ればいいのにと思っていた。わたしの中で、そなた以上に聖女に相応しい存在はいないから。だが、きっと訳の分からん者が召喚されるに違いないと諦めていたら、神の悪戯か、そなたが現われた。もう運命だと思ったし、絶対に捕まえようと己に誓った。だから、少々強引に迫ったことは許して欲しい。でも、そなたが本当に嫌なら、これ以上はしない」
殿下が苦しそうに、眉を寄せている。その表情が情欲を必死に抑えているのだと物語っていた。
俺の淫紋がじわりと熱を帯びる。
「俺も、殿下のこと……好き、みたいなんです。だから、浄化されたくはないんですけど、その、俺を愛してくれますか?」
「もちろんだ。アルを浄化しないよう神力は込めない。それでも浄化されそうだと思ったら言ってくれ」
殿下の手がそっと俺の肩を押してきた。俺は柔らかいベッドの上にころんと寝転がる。
「羽は痛くないか? しまうなら待つぞ」
「……しまいたいのですが、たぶん、すぐに飛び出てしまうと、思うので」
言っていて恥ずかしいけど、本当のことだ。殿下に背中を啄まれただけで羽が出てしまったのだ。どうやら俺は感じると力の制御が出来ないらしい。
「ふふ、そうか。ならば仕方ないな」
殿下がとても楽しそうに笑っている。かなりご機嫌の様子だ。
もうどうにでもなれだ。殿下に身を任せよう。そう覚悟した瞬間、すぐにやっぱ早まったかなと思ってしまう。だって、殿下が再び口づけをしてきたのだが、舌を入れ込んできたのだ。この深いキスは俺が浄化されてると思っちゃったほど、思考をぐずぐずにするやつだ。
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