7人が本棚に入れています
本棚に追加
第五話 第二人格の依頼
01
「どういう……」
大介に質問の間を与えず、金髪の女性は部屋の中へ突入した。
「失礼~」
「ちょっ...お前、誰だ!?何しに来たんだ!?」
「昨日の夜、あなたに身も心もごちゃごちゃにされた悠治の保護者ですよ」
「はぁ!?」
(保護者?というと、あいつが扮したんじゃなく、違う人間なのか?)
(って、違う、そんなことより――)
「誤解されそうな言い方をやめろ!あのシスコンにオレは何もしなかったぞ。保護者って、姉か?親戚か?名前は?小説の件のために来たのか?」
質問連発の大介に対して、美女は余裕そうに唇に指をあてて、ちょっと考えてから答えた。
「そうですね、この姿で誰かに自己紹介したことはまだないですね……じゃあ、ペンネームの悠子でいいわ」
「ペンネームの悠子……まさか、あの小説を書いたのはお前か!?」
「いいえ、悠治が書いたの。クズ男に復讐するとはいえ、三流エロロマンスを書くなんて、私に相応しくないですもの」
「じゃあ、彼はお前のペンネームを借りたのか?」
「いいえ、悠子は悠治のペンネームです」
「二人が同じペンネーム?」
「理解力がどうかしてるわ、出直しに来なさい」
「”#$%&’()=IU'&%$#"#$%&'()000」
(お前の説明こそどうかしてるじゃないか!!)
がっかりそうにため息をついた悠子、完全に混乱に落ちた大介。
悠子はそれ以上大介に構わず、スタジオを回し始めた。
作業台に置いてある建物の模型や企画書を見て、納得したように頷いた。
「なるほど、密室脱出ゲームを作ってますね。引きこもりで引きこもりみたいなエンターテインメントを考えたから、おかしくなったパターンですね」
「それはあのシスコンのことだろ!」
「あら、シスコンで悪いですね」
悠子は冷笑した。
「でも、ここにいる人間性も分からない男よりずっとましだと思いますわ」
「人間性も分からない男ってなんだ!」
悠子はパソコンで大介の作業資料をめぐりながら、毒舌を連発した。
「轟音や叫びで勢いを作って、現実性のない残酷シーンで人を脅かして、生理的に気持ち悪い道具を置きっぱなし、それでホラーのつもり?むしろギャグものですわ。アイデアだけは褒めてやるけど、所詮、人間性の分からない素人が作りがちなダメ作です」
「!?」
あれは、制作会社のが流行要素云々って無理やりに追加させられたものだ!
大介が反論する言葉を探しているうちに、悠子のほうはもうDeleteを押した。
「よし、削除っと」
「!!!」
反論もアレルギーのことも忘れて、大介は一歩駆け出して、悠子の手を掴んだ。
「お前、なんてことを……!!」
悠子は鋭い目で大介を見返した。
「まだ分かってないの?頭が悪いですね。あなたが私にしたことをやり返しに来たのに決まってるじゃない」
「お前に何もしていないだろ!」
「私の家に不法侵入、私の許可なしでパソコンやメモ用紙をいじる、私の顔を通帳で叩く、私の髪とドレスを汚い足で踏みにじる、何より、私の妹と電話番号を交換すること!――どれも万死に至る罪です!」
「何バカなことを、あれは全部あのシスコン……っ!!」
ふっと、大介はある可能性に気づいた。
「お前、まさか……」
近くで見たら、やっぱり――
メイクしているけど、悠子は悠治と全く同じ顔を持っている。
特に、右目下のほくろが全く同じ位置にある。
「もうわかったでしょ?悠治の顔は私の顔、悠治のものは私のもの、悠治の妹は私の妹ですよ!」
そして、悠子のいろんな妙な言い方から導いた結論は……
「二重、人格……!?」
02
聞いたことがある。
本人の人格がストレスに耐えられなく、第二の人格は保護者として生まれる話……
これもまた、とんでもない面倒なことになりそう。
でも、相手は二重人格だろうと三重人格だろうと、そもそも、基本な事実が捻じ曲げられている。
「いい加減にしろ!オレはお前の家に行ったのは、お前があのデタラメの小説を書いたからだ!」
「書いたのは私じゃない、悠治です。この件に関して、私は完全に被害者ですわ」
「何が完全に被害者だ……」
話が通じない相手に、大介は平和な交渉を諦めた。
「とにかく、警察……」
スマホで近所の交番に電話をかけようとしたら、いきなり、悠子の足が飛んできて、携帯を蹴り飛ばした。
そして、悠子に後ろから両手を掴まれて、顔が下向きで机に押し倒された。
「言ったでしょ。私は悠治の保護者、警察を呼ぶくらいで、私をどうにかできると思いますか?」
そう言いながら、悠子は体勢を下げて、大介の手を自分の顔と首に押しつけた。
「!!」
それから大介を解放し、自分のスマホを出した。
「さあ、警察を呼びましょう。私今、理不尽なセクハラをされました」
「ひ、卑怯なっ!」
今度は大介が電話を阻止するために、悠子に飛びかかった。
でも悠子はワルツを踊るように、大介の動きを誘導し、体の接触を利用して、大介の手を自分の体のあちこちに触らせた。
最後に、大介の腰を捕まえて、自分の上に乗せている状態で二人で床に倒らせた。
そして、よこからスマホのカメラのシャッターを押した。
「証拠写真もゲットですわ」
「一体、何がしたいんだ、この変態……!!!」
大介の体は怒りで震えている。
「いいから写真を渡せ!」
大介は携帯を奪おうと、スマホもろとも悠子の手を掴んだ。
その時――
「お邪魔しま~す!」
玄関から、アシスタントたちの声が届いた。
「大介さん、差し入れを持ってき……」
「!!」
「!?」
「!?」
二人の若い男性と一人の若い女性が、目の前の景色に呆気にとられた。
静寂は数十秒が続いた。
「大介ったら、ドア閉めを忘れないでって何度も言ったでしょ」
悠子は余裕そうに色気っぽい微笑みを大介にかけた。
「!!」
「えっと、差し入れが、ちょっと足りないみたいね!」
最初に状況を理解した若い女性はクルッと身を翻した。
「そ、そうだな!私が買いに行こうか!」
「俺もちょっと買い忘れたものがある!」
「わたしも行くわ!」
三人は我が先に部屋から逃げ出した。
「……もう満足だろ……」
諦めたように、大介は身を引いて、ぺたりと床に座った。
「お望み通り、オレのほうもごちゃごちゃだ……」
「まあ、大体やり返したし、遊びはこの辺にしましょう。本題に入りますわ」
悠子は髪とワンピスを整えて、床から起きた。
「まだ何かやるつもり!?」
大介は自分神経がビシッと切った音を聞いた。
「ええ、どちらかというと、こっちがメイン目的ですよ――悠治を雇用してほしい」
「!?なんの冗談だ……」
大介は自分の耳を疑った。
「冗談じゃないわ。昨日、あなたに置き去られた悠治は人生を諦めましたの」
「だから、その誤解されそうな言い方をやめろって!」
大介の抗議を無視し、悠子はひとため息をついて、真面目そうに続けた。
「十数年の引きこもりで雪枝を守ることだけが生きがいの彼は、あなたへの復讐に全てをかけました。なのに、あんな形で終わらせてしまって、彼にとってどれほどショックのことなのか、あなたにも分かるでしょう」
「分からないんだ……変態シスコンの考えなんて」
「とにかく、彼が生きる意欲を失ったから、私はこうして外に出なければなりません。昨晩から一生懸命生きる理由を探し続けていました。すると、あなたへの恨みが浮かび上がりましたわ」
「なんでオレへの恨みが生きる理由になるんだ!」
(あまりにも理不尽だろ!)
「本来なら、雪枝の幸せを守ることにすべきだけど、雪枝は今、あの身分詐欺彼氏とラブラブじゃないですか。悠治がそれを思い出すだけで余計につらくなって、死にたくなるの。ですから、しばらく彼の思考の焦点を雪枝から逸らす必要があります」
「だから何故オレなんだ……?」
「事情がおかしくなったのは、あなたが現れてからです。私はあなたがすべての元凶という暗示を自分にかけました。この暗示は悠治の潜在意識にも影響します。これで、あなたへの復讐心は、彼の生きる意欲へと繋がるでしょう」
もう聞いていられない、大介は床を叩いで起き上がった。
「逆恨みでもほどがある!あいつは生きる意欲がないなら、それでいいんじゃないか!お前がいるし、その体はもうお前一人のものでいいだろ!」
「そんなのできませんわ」
悠子は目を伏せてに頭を横に振った。
「悠子は、悠治が生きるために必死に生みだした人格。もし、彼は完全に生きる意欲を失ったら、この悠子の人格も長く存在できないでしょう」
「……」
人助けのために、自分が悪役になるということか……
こっちこそ被害者なのに、なんでこんな展開に……
寂しそうな悠子の顔を見て、大介は長いため息をついた。
あれだけ陰気な悠治と突っ走る悠子だけど、生きるために必死に足掻いていることがなんとなくわかった。
考えてみれば、すべてをかけた復讐といっても、悠治ができるのはあの小説による名誉棄損くらい。
なんと、無力で悲しい人だ……
「まあ、一人の引きこもりシスコンに恨まれる程度のことなら……」
「では!私は全力を絞って、悠治を浮かばせます!無理やりにでも彼をあなたの元に引き留めて、あなたへに恨みを強めるのですよ!」
悠子は落ち込む表情を一掃し、ギュッと大介の手を握った。
「それと、万が一失敗した場合、私は死ぬ前にさっきの証拠写真を警察に送ります」
「ちょっ、なぜだ!」
「人間の心が分からいないものですから、手抜きをさせないために、保険をかけないと~では、頑張ってくださいね、大介君!」
悠子はチャーミングな笑顔見せたら、キュッと目を閉じた。
「おい!!待って……!!」
こんな人に同情心をかけることに、大介はひどく後悔した。
最初のコメントを投稿しよう!