恋の賞味期限

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「あれ? 奈々(なな)、痩せた?」  授業合間の休み時間。教室の隅で、みんなで持ち寄ったお菓子をポリポリ摘みながら、友人の変化に気付いた私は思わず声に出していた。 「分かる? 最近、食欲なくてー」  奈々は小さく はにかみ、お菓子も全然口にしない。  その溢れる煌めきに、具合が悪いとかではないと私は瞬時に感じ取る。 「恋してるねー」  もう一人の友人、(らん)がその答えを述べた。 「やめてよー」  そう言うと奈々はチョコを摘み、蘭の口に放り込む。  その目は泳いでいて、頬は赤く染まり、口元は ふにゃふにゃに緩み、抑えられない笑みを溢していた。  奈々は、勉強を教えてもらっている家庭教師の大学生に恋をしている。イケメンで頼りになって、大人の魅力を持っている彼を想うだけでドキドキしてしまうらしい。  大学合格したら絶対に告ると意気込んでいるその姿は、教室の窓から見える桜の花弁のように美しかった。 「……いいな」  私は、はしゃいでいる二人の姿に思わずそう呟いていた。 「え? 何でよー? 絵美(えみ)には大和(やまと)君がいるじゃん」 「本当、羨ましいよ。片思いって不毛過ぎて泣けてくる時あるもん」  奈々と蘭は、顔を合わせて苦笑いを浮かべる。  蘭もバイト先の先輩といい感じらしく、受験の関係で夏頃にバイトを辞める予定の為、その時に……と考えていると言っていた。  ああ、いいな。本当にいいな。  髪も肌も艶やかで、表情は柔らかく華のような微笑み、制服のスカートから伸びる足は細く長い。  そして全身から放たれる、幸せな雰囲気。 「恋する乙女は美しい」とは、よく言ったものだ。  私は斉藤(さいとう)絵美(えみ)。高校三年生になったばかりで、同じ高校の同級生である、藍沢(あいざわ)大和(やまと)とは付き合って一年。  よく、「いいな」とか言われるけど、一緒に居るのが普通で、今更トキメキも何もない。  まあ、安定しているとは思うし、別れたいとかは当然ないんだけど、「恋の賞味期限」は切れてしまったのだろうと ふっと考えることはある。  マンネリ解消にと色々模索したこともあったけど、大和は意味が分からないと言いたげな表情してくるし、もう諦めるしかないのだろう。  賞味期限は一度切れてしまったら終わり。一番美味しいあの頃には戻れないのだから。
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