お坊ちゃん

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「大きな声を出すんじゃないぞな、もし。」  軽鴨課長はなぜかもじもじして言った。 「かっ、軽鴨課長じゃないですか!?こっ、こんな所で何をやっておられるのですかっ!?」  私が驚くのも無理はない。4月に赴任してきた課長は翌月、5月病にかかり、8月になった現在まで病気休暇で休んでいたのだった。 「丸鴨(まるがも)君!」  丸鴨というのは、私の名前だ。 「とりあえず、中に入って話そうや。」  課長とはいえ、中々図々しい男だ。家の中にこんな汗だくの上司を入れるのは嫌だなぁと思っていると、見透かしたように軽鴨がウインクした。 「軽鴨と丸鴨の仲ぞな、もし。」  こんな変な上司と、一部とはいえ名前が被ってしまったことが、死ぬほど嫌で仕方がなかった。私が渋々と鍵を開けると、軽鴨はスルリと中に入っていった。 「か、課長!散らかっているので、あまり奥には・・・」  課長は一目散に台所へ行くと、勝手に冷蔵庫を開け、コップに麦茶を注いでゴクゴクと飲んだ。 「自分でやるから、お気遣いはナッシングぞな、もし。」  何がナッシングだ!お前がナッシングじゃい、と思ったが、得意の読心術で心を読まれるとやっかいなので、急遽何も考えないようにした。
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