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私だって、こんなことをしたくない。でも、仕方がない。もう、あなたを消すしかない。
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私は、裕福な家庭の長女として生まれた。
父は厳しく、私、何でも一番を取るように育てた。しかし、幼少期の私は、成長が遅く、同じ年齢の子が出来ることでも、私には出来なかった。次第に私は自信を無くし、性格も内向的になり、いつも一人で家の中で過ごすようになっていった。
しばらくして我が家に弟が生まれた。待望の長男で、父もすごく喜んでいた。
弟は私と違い、優秀だった。父の期待を全て応えた。
父も次第に、私には何も期待しなくなった。ただ、容姿について口を出すようになった。何かを成し遂げることが出来ないなら、せめて良い縁談を得られるようにと、私に矯正器具を付けさせた。
その矯正器具は、ウエストを細くする物と、脚を細くする物。それに、顔の輪郭を小さくし鼻筋を真っ直ぐする装具を成長期が過ぎるまで付けさせられた。私はより一層に内向的になり、用事が無ければ部屋から出ない生活を送っていた。
成長期を過ぎると、矯正器具を外すことが出来た。
矯正器具のおかげもあったのか、私は美しい娘として、ある程度世間の噂にはなっていた。しかし私は私の顔が嫌だった。なぜなら、嫌いな父によって作られた顔のように感じていたから。
しかし、そんな私にも転機が訪れた。
なんと私が国王の妻として選ばれた。その王様は前妻を病気で失い、後妻を探した。そこへ、美しいと噂のあった私に、白羽の矢が当たったというわけだ。
私は国王の妻になれたら、幸せになれると思っていた。しかし現実は違っていた。
王様は私には興味が無かった。興味があったのは、自分がどう見られているか、ということだけだった。高価な服に、希少な装飾品を身に纏い、自分の権力を誇示することだけが大切だった。私は、そんな装飾品の一部に過ぎなかった。
国王の妻と言うのは名ばかりで、王様は多くの妾を囲い、私には愛情すらなかった。私が王妃になって与えられたものといえば、前王妃から受け取った遺品と、その娘ぐらいだった。
王妃なろうと、私は私。誰からも認められず、自信も持てず、内向的で部屋に籠る生活のままだった。以前と変わったことといえば、部屋が広く豪華になったことだけだろう。
そんな辛い日々の中、あなたが私を変えてくれた。
私があなたに会ったのは、私の部屋の中だった。私が心を許して話せる相手はあなただけだったわ。
最初は警戒もしていた。
「あなたは世界で一番美しい」と言ってくれたが、私はどうせ、お世辞だろうっと相手をしなかった。
しかし、毎日毎日、あなたは私に声を掛けてくれた。「綺麗だね」とか、「素敵だよ」っと。
そして、私の些細な変化にも気づいてくれた。「髪の毛、切った?似合ってるね」と言ってくれた。「口紅、変えた?その色も素敵だね」とも言ってくれた。
私は、どんどんとあなたの虜になっていった。
あなたと話がしたくって、あなたの目の前にいる時間が長くなる。
あなたに褒められたくて、若くいようと化粧を頑張ったり、美しくなるようにと服装も気を付けた。自分の顔が、自分の体が、どんどん好きになる。 あなたは私を認めてくれた。私は自分に自信が持てるようになっていった。
だけど幸せは突然崩れた。
あなたは私を褒めなくなった。その代わり、あなたは私以外の女に興味を持った。私が目の前にいるというのに、他の女の姿を私に見せる。
我慢が出来なかった。
しかも、相手は私が知っている女だった。それも身近な。
こんなこと許せる?
もう一度、あなたが私だけを映すようになるなら、私は何でもするわ。
最後にもう一度、あなたに訊くわ。
「世界で一番美しいのは誰?」
「それは白雪姫です」
あなた(魔法の鏡)は答えた。
前王妃の遺品の中にあった魔法の鏡。これだけが私の支えだった。
もう、白雪姫を消すしかない。
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