5人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「その容赦無いツッコミは天音ちゃんだね? よかったあ、地獄に花とはこのことだよ」
「それを言うなら地獄に仏です」
鈴井さんは心底ホッとした様子で、後ろからわたしに抱きついてきた。重くて仕方ない。
「方向音痴のわたしを、こんなだだっ広い場所に放り出すなんて、博士は鬼だよ」
「ここで会えて良かったですよね。わたしもヘトヘトですよ」
わたしは水を汲むためのコップを作り出そうと意識を集中した。ここが意識下の世界なら、わたしの力でなんでも作り出せるはずだが、なぜか上手くいかない。背中に憑き物がいるせいだろうか。
わたしや鈴井さんの身体が変化しているのだから、ここはイセカイなのは間違いない。ルミナスとは仕組みそのものが違うのだろう。
「ねえ、天音ちゃん。いい匂いがするんだけど、香水か何かつけてる?」
「イセカイに来たばかりなのに、そんなわけないでしょ」
鈴井さんはわたしに覆いかぶさったまま、すんすんと鼻を鳴らしている。
「いやいや、この匂い、小さい頃に嗅いだことあるもん。確か、おばあちゃん家で」
「人をおばあちゃんみたいに……」
と言いかけて、わたしも思い出した。わたしのおばあちゃんも香水をつけていたのだ。湖面に映るその顔を改めて確認する。もしやこれは、若い頃のおばあちゃんなのでは。
最初のコメントを投稿しよう!