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「その容赦無いツッコミは天音ちゃんだね? よかったあ、地獄に花とはこのことだよ」 「それを言うなら地獄に仏です」  鈴井さんは心底ホッとした様子で、後ろからわたしに抱きついてきた。重くて仕方ない。 「方向音痴のわたしを、こんなだだっ広い場所に放り出すなんて、博士は鬼だよ」 「ここで会えて良かったですよね。わたしもヘトヘトですよ」  わたしは水を汲むためのコップを作り出そうと意識を集中した。ここが意識下の世界なら、わたしの力でなんでも作り出せるはずだが、なぜか上手くいかない。背中に憑き物がいるせいだろうか。  わたしや鈴井さんの身体が変化しているのだから、ここはイセカイなのは間違いない。ルミナスとは仕組みそのものが違うのだろう。 「ねえ、天音ちゃん。いい匂いがするんだけど、香水か何かつけてる?」 「イセカイに来たばかりなのに、そんなわけないでしょ」  鈴井さんはわたしに覆いかぶさったまま、すんすんと鼻を鳴らしている。 「いやいや、この匂い、小さい頃に嗅いだことあるもん。確か、おばあちゃん家で」 「人をおばあちゃんみたいに……」  と言いかけて、わたしも思い出した。わたしのおばあちゃんも香水をつけていたのだ。湖面に映るその顔を改めて確認する。もしやこれは、若い頃のおばあちゃんなのでは。
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