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『鈴井君、気分はどうだ』
「最高ですね。本当の自分を取り戻せた気がします」
「むしろ偽りの姿では」
鈴井さんが堂々と答えるので、理絵が突っ込んだ。
「ふふふ、なんだか生まれ変わった気分なのよ」
「それって結局別人ってことでしょ」
そんなやり取りを見ているとき、ふと違和感に気づいた。
「ちょっと失礼しますよ」
彼女の横顔に当たる長い髪をよけてみると、そこにあるはずのものがない。
「博士、鈴井さんの耳がないです。理絵も耳の再現が甘いので、これは人類共通の弱点かも知れませんね」
『ふむ、面白い。普段から隠れて見えにくいからというわけか』
博士が言うのを聞いて、鈴井さんはペタペタと自分の顔の横を触り始めた。
「ホントだ。じゃあ、わたしはどうやって音を聞いてるの? ……意識したら段々聞こえなくなってきた」
鈴井さんが妙なところに引っかかっている。そのうち、彼女の顔がモゾモゾとうごめき始めた。
「鈴井さん、猫耳生えてますよ」
「にゃんと」
ねんねこイヤーのイメージに引っ張られたのか、彼女の頭に立派な動物の耳が現れた。
『三浦君、君の方からは干渉出来ないのか?』
鈴井さんはわたしの管理外の存在だが、着せ替える感覚で見た目をいじることは出来るのでは。彼女の顔を、猫耳に相応しい造形に作り変えてみる。
「でた、猫娘」
理絵が腹を抱えて笑っている。立派なヒゲを持つ、猫人間が出来上がった。
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