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「えーと、鈴井さんでいいんですよね」
「もちろんですとも」
ド派手な赤い着物を着た彼女は、もぐもぐしながら答えた。顔も前回とまた違っているし、もはや外見からでは判断が出来ない。
「その格好はなんなんです」
「かわいいでしょ。成人式で着るはずだった着物だよ。天音ちゃんから赤い衣装をイメージするように言われたから、リベンジで着てみました」
「成人式って、鈴井さんはもう三十……」
「おっと、それ以上はいけない」
理絵のさらなるツッコミを、鈴井さんが凄い反応速度で制した。
「せっかくお高いのを借りたのに、当日四十度の熱が出た上に、お腹を壊して出席出来なかったのよ。ちゃんと誰かに見てもらいたかったんだよね」
「それはいいですけど、顔が別人じゃ意味がないような」
「どこからどう見てもわたしですが、何か」
鈴井さんは横ピースをして見せる。見た目は別人だが、自力でここまで作り出したのなら、この人は案外想像力が豊かなのかも知れない。
「皆様、ご歓談中のところ、恐縮なのですが」
話が途切れるのをうかがっていたエヴァンが、軽く手を上げた。
「実は折り入ってご相談したいことがありまして」
エヴァンが目配せをすると、入口に立っていた男が敬礼をして近寄ってくる。警備隊長のクラストだ。
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