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 わたしの名前は三浦天音。発明家の三城玲奈博士の研究所に務める二十三歳。日本生まれの日本育ち。未だかつて、現実ではこの国から出たことはない。  そんなわたしは今、青い空の下で氷の大地に立ち、流氷を見ていた。 「ねえ天音。やっと春が来たと思ったのに、なんでわたしはこんなところにいるのかね」  隣では、ファー付きのモコモコの服を着た理絵が文句を言っていた。 「ラボに南極の地形データが沢山あったからだよ」 「それについては専門家のわたしが説明しましょう」  と、メガネをくいっと上げたのは、ブロンドヘアでスタイルのいいお姉さん。 「一応、恒例行事になってきてるんで聞きますよ。誰ですか」 「アメリカ生まれのアカネスズイ、二十二歳です」  鈴井さんがいつものように決めポーズを取ってみせる。もう三回目なのでわたしたちも慣れてきた。 「モデルは、昨日見た映画の主演の女優さんだよ」  わたしはあまり詳しくないが、確かにテレビで見たような顔だ。鈴井さんは見たものを忠実に再現する能力は優れているらしい。 「この大陸のデータは、わたしが自分の足で踏破した、血と汗と涙の結晶なの」  鈴井さんが熱く語る。彼女は定期的に南極に派遣され、様々な実験に参加していた。嫌がっているのを半ば強制的に連行されていたが、報酬だけは高額なのだとか。 「鈴井さんが記録した地形データを、VRでわたしが体験して、こちら側にコピーしたのがこの世界なんだよ」 「なんだかややこしいな」  南極を精神世界に再現したのは、精神が肉体とは別に存在しているという説を確かめるためだ。
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