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 鈴井さんは数年をかけて、南極大陸データを集めた。その容量は、およそ五百五十ペタバイト。人間の脳の容量が数十から百テラバイト程度と言われているので、南極のデータはその五千倍以上になる。つまり、脳内で南極を完全に再現するのは事実上不可能なわけだ。  ルミナスを構築しながら、わたしはなんとなく察していた。全てを脳内に記憶しているのなら、とっくに容量オーバーなのではと。  ルミナスはわたしが独自に作り出した世界なので、明確な情報量はわからない。そこで、南極大陸の地形データに目をつけた。もちろん、わたしというフィルターを通すことで、情報量が変化することはあるだろうが、目安にはなるだろう。 「鈴井さん、どうですか? 南極マイスターとしてのご意見をお聞きしたいんですけど」 「そうだね。この肌を刺すような冷気、凍りつくまつ毛。そしてこの草一本生えない不毛の大地。紛れもなく南極大陸そのものだね」  若干の私情が見え隠れしているが、彼女が言うのなら再現度に問題はないだろう。事前に地形データを記憶出来た段階で、既にわかっていたことだ。わたしは既に肉体の限界を超えることをやってしまっているのだから。
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