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「鈴井さん、よくこんなところで生活出来ましたね」
「好きで住んでたわけじゃないけどね。でもここにいると、色んな発見があるんだよ。慣れたら案外なんとかなるし。住めば都ってやつかな」
鈴井さんが得意気に笑っている。どんなに厳しい環境でも、その場所のことを把握してしまえば、多少は気持ちに余裕が生まれる。自分の中に南極の情報を整理して、起こり得る未来を予測する。これもシミュレートには違いないが、あくまで脳内で処理しているはずだ。
建物の中には天体観測用の部屋があった。天井がドーム上になっていて、座り心地のよい椅子が置いてある。
「ここはね、わたしのお気に入りなんだよ」
そう言って、鈴井さんが椅子の真ん中に座るが、すぐに首を傾げた。
「そろそろ星が見える頃なんだけどな」
ドームの向こうに見える空は、雲一つない澄み切った青一色だ。
「すみません、時間経過はシミュレートしてるんですけど、ここには天体のデータは入ってないんですよ」
「えー、残念。あの星空を二人にも見せたかったのに」
鈴井さんは口を尖らせた。天体のデータ化には専用の観測機が必要になるし、再現するとなるとかなり面倒なのだ。
「そんなに綺麗なんですか?」
理絵が聞くと、鈴井さんは何度もうなずいた。
「綺麗すぎて感動するよ。見境なく隣の人に告白しちゃうぐらいには」
「なにそれ、怖い」
天体をシミュレートするということは、宇宙をデータ化するということだ。さすがにそんな膨大なデータを保持出来るのか、わたしにはまだ自信がなかった。
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