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 その草原はものすごく広く、どこまで歩いても人の気配はない。歩くにつれて次第に不安になってくる。このまま、どこだかわからない場所で行き倒れになったらどうしよう。  二時間程度歩いたところで湖を見つけたわたしは、ひとまず休むことにした。息が上がり、両足が痛む。吹き出す汗で全身から湯気が上がりそうだ。歩き続けて疲れるのは当然なのだが、妙に現実感が強い。  ひとまず水を飲むため湖面に顔を写したとき、わたしは違和感を覚えた。なんだか髪が短くなっているし、顔つきがいつもと少し違う。  触ってみると、より違和感がはっきりしてくる。完全に別人というわけでもないので、再現度の問題かもしれない。 「……すみません」  唐突に背後から声がして、わたしは心臓が止まりそうになった。恐る恐る振り返ると、髪の長い女の人が立っていて、死にそうな顔をしている。 「町はどこにありますか。実はかれこれ二時間近く彷徨っていて、もう体が奇声を上げていて」 「……奇声を上げてどうするんですか、鈴井さん」  わたしは確信を持って突っ込んだ。
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