(1)

4/7
前へ
/93ページ
次へ
 食事を終えたわたしは、理絵を人気のない裏路地に連れてきた。 「ちょっと、こんなところで何をする気?」 「しっ。黙って。誰かに邪魔されたくないんだ」  すっかり日も落ちて、街灯もない路地は薄暗い。辺りは不気味な静寂に包まれていた。 「理絵に受け取って欲しいものがあるの」  わたしは理絵の手を取ると、コートのポケットから取り出したリングを彼女の指にはめた。 「え? 何これ」 「肌見放さず着けていて。わたしも着けてるから」  わたしの薬指には、理絵と同じリングが輝いている。 「えっ、えっ? どういうこと? 意味がわからないんですけど」  慌てふためく理絵の口を抑えて、わたしはその耳元に口を近づけた。 「静かにして。誰かに聞かれちゃうでしょ」  これは秘密を守るために必要な儀式。理絵には理解してもらわなければならない。 「今からわたしが言う言葉をそのまま反復して。いい?」 「う、うん」  わたしはもう一度周りを見回し、誰もいないことを確認した。唱えるなら今だ。 「〝ドロン〟」 「ドロ……ン?」  リングがわずかに光り、わたしたちの姿が物理的に消える。これで誰かに見られる心配はないはずだ。 「よし、上手く行ったね」 「……ちょっと。どういうことよ」  見えないところから理絵の声がする。 「静かに。姿は消したけど、誰に聞かれているかわからないんだから」 「あんたは一体、何に追われてるの」  わたしは理絵の手を引いて、目的地である三城博士のラボを目指した。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加