7人が本棚に入れています
本棚に追加
食事を終えたわたしは、理絵を人気のない裏路地に連れてきた。
「ちょっと、こんなところで何をする気?」
「しっ。黙って。誰かに邪魔されたくないんだ」
すっかり日も落ちて、街灯もない路地は薄暗い。辺りは不気味な静寂に包まれていた。
「理絵に受け取って欲しいものがあるの」
わたしは理絵の手を取ると、コートのポケットから取り出したリングを彼女の指にはめた。
「え? 何これ」
「肌見放さず着けていて。わたしも着けてるから」
わたしの薬指には、理絵と同じリングが輝いている。
「えっ、えっ? どういうこと? 意味がわからないんですけど」
慌てふためく理絵の口を抑えて、わたしはその耳元に口を近づけた。
「静かにして。誰かに聞かれちゃうでしょ」
これは秘密を守るために必要な儀式。理絵には理解してもらわなければならない。
「今からわたしが言う言葉をそのまま反復して。いい?」
「う、うん」
わたしはもう一度周りを見回し、誰もいないことを確認した。唱えるなら今だ。
「〝ドロン〟」
「ドロ……ン?」
リングがわずかに光り、わたしたちの姿が物理的に消える。これで誰かに見られる心配はないはずだ。
「よし、上手く行ったね」
「……ちょっと。どういうことよ」
見えないところから理絵の声がする。
「静かに。姿は消したけど、誰に聞かれているかわからないんだから」
「あんたは一体、何に追われてるの」
わたしは理絵の手を引いて、目的地である三城博士のラボを目指した。
最初のコメントを投稿しよう!