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 コンクリートの無機質な壁に、〝三城クリエイティブラボ〟と書かれたプレートがわずかに見える。ここがわたしが働く研究所だ。  入り口のパネルに手をかざすと、AIによるメッセージが流れてくる。 『IDを確認しました。お帰りなさいませ、三浦主任』  がたんと音がして、床がゆっくりと地下へと降りていく。その途中、微粒子スキャンによる身体検査を受け、エレベーターが止まると同時に扉が開いた。 「やあ、遅くにすまないね、佐伯君」 「博士、そこには誰もいません」  白衣を着たスタイルのいい女性、三城博士がわたしたちを出迎える。姿が見えていないので、視線があさっての方向を向いている。 「理絵、姿を見えるようにするから、同じように唱えてね」 「え?」 「〝サンジョー〟」  姿見に映った自分のニヤケ顔と目が合う。何度やっても、この〝インスタントマン〟の効果にはワクワクしてしまう。これが極秘の発明品とは勿体ないが、悪用されかねないことを考えると仕方がない。  それはともかく、理絵は一向に姿を現さないようだが。 「理絵、早く元に戻りなよ。〝サンジョー〟って言うんだよ。腹に力を入れて」 「……さっ、さんじょー」  間の抜けた掛け声の後に、顔を真っ赤にした理絵がようやく姿を現した。
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