春を待つ翼

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「ただいまー!」 静かだった家の、玄関が急に騒がしくなる。 勢いよくドアを開ける音とリュックを床に下ろす音。 琉生(りゅうせい)が帰って来た。 床板を(きし)ませてこちらに近づいてくる足音は、彼の身長がとっくに私を追い越したことを伝えてくる。 すぐにキッチンの入口を覗き込む笑顔と目が合った。 「ただいま。愛梨(あいり)」 「…おかえり」 彼は素っ気ない私の態度に首を傾げる。 「何よ」 「変な顔してる」 「元々です」 私は椅子に座ったまま、スジを取ったスナップエンドウに視線を移し、また作業に戻る。 「何で怒ってんの」 「怒ってはいない。呆れてるだけ」 「そう。それよりお腹すいた。今日のご飯なに」 「琉生」 私は手を止めてため息をついた。 「何で毎日に帰ってくるの」 「ご飯食べに」 「だから何で。あなたの家は隣でしょ」 「いつでもすぐに帰れるんだから、別にいいだろ」 琉生は少しふてくされた顔で、テーブルの上にあるマシュマロに手を伸ばす。口の中の甘さと裏腹に(わず)かに眉根を寄せた横顔は、昔の面影を彷彿とさせた。
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