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僕の王国の秩序を乱す奴はいらない。
「このユーザーを削除しますか?」
画面に表示されたメッセージに迷わず「はい」をクリックする。理由はゲーム内のメッセージを利用してマルチの勧誘を行ったから。人の庭で詐欺をするなど言語道断だ。
「あなたのアカウントは永久凍結されました……ってね」
四年前、中学に入学してすぐの頃にこのソーシャルゲーム『レジェンド・オブ・ドロシー』、通称レジェドロを作った。収益を軍資金にアップデートを重ね、ようやく軌道に乗ってきた僕のライフワークだ。同世代が学校に行っている間、僕はこのゲームの開発とイラストの作成に時間を費やしていた。
僕は“ギフテッド”らしい。一度でも見聞きしたものはすべて鮮明に記憶して忘れないこともそれらの構造を原理的に理解し頭の中で再構築する力も誰もが持っているわけではなく、神様に与えられた僕だけの特別な力だと知った。
僕は周りの人と違った。周りの人はそういう風に僕を扱った。人との会話のテンポのズレに気づいた。そこに悪意が存在しないとしても、生まれ持った感覚が嚙み合わない人たちと一日の半分を過ごすことが僕は苦痛でたまらなかった。僕は学校に行かなくなった。
孤独を感じることはなかった。絵を描いてネットの海に放流すれば賞賛を浴びることができたから。将来に不安を感じることもない。戯れに始めたプログラミングで作ったゲームで既に収入を得ているから。
「ナナちゃん明日のオフ会行く?」
ゲーム内ギルドの仲間、涼に質問される。ナナは僕の本名、七尾和馬からとったものだ。ユーザーとの交流を通じた環境調査も大事な仕事の一つだから素性を隠してギルドに所属している。
「ボクは行けたら行く感じかなあ」
一人称はボクを使っているが、男言葉は意図的に使わないようにしている。音声ではなくチャットでの会話なので、仲間は皆僕をいわゆる“ボクっ娘”の女子高生だと思っている。
「俺も。起きたら行く」
涼も僕も昼夜逆転生活を送っている。
下心丸出しのギルドの他の男たちと違って、涼は紳士的だった。そして、僕と同じくギルド内最年少でありながら他の男たちからも一目置かれていた。それは涼が一番ゲームが上手だからというだけではなく、彼の人間性も大きいだろう。彼は悪口を言わない人だった。
僕はまともな形でのコミュニケーションをとることができない。だから、ネット上ではハンドルネームや女の子のアバターでわざと性別を誤認させて、いわゆるオタサーの姫としてふるまっている。僕もオタク気質の男だから、どういう女性像が僕と同じ属性の男に受けがいいかは理解しているので、文字情報のみを使って理想のオタサーの姫を演じるのは難しいことではなかった。
明日のオフ会には行かない。みんなは僕が男だと知ったら激怒するだろうから。でも、涼だけは笑って許してくれるんじゃないだろうかと少しだけ期待している。僕は男で、このゲームの世界の創始者。今までずっと騙していた。そう打ち明けても「これはナナちゃんが一枚上手だったな」って笑い飛ばしてくれる。そんな夢を見る。
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