友よ

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 駿平(しゅんぺい)は年の瀬、実家に帰ってきた。駿平は東京で働いていて、実家には年末年始に帰省するのみだ。駿平は高校を卒業後、東京の大学に進み、その時から東京に住み始めた。駿平は卒業後に東京の会社に就職した。毎日忙しい日々だが、徐々にその生活に慣れてきた。なかなか彼女ができなかったが、今年の秋に女と交際を始め、ようやく結婚できそうなほどに仲良くなった。早く結婚して、両親に晴れ姿を見せたいな。 「帰って来たな」  最寄りの駅に降り立ち、駿平は深呼吸をした。2020年と2021年はコロナ禍で帰れなかった。だが、2022年は帰れた。徐々にこれから明るい未来になっていくだろう。  駿平は実家までの道を歩いていた。高校までは毎日のように歩いた道だ。とても懐かしい気分になれる。あの頃に戻りたい。だが、もう戻れない。俺は東京で暮らし、働いているんだ。  駿平は実家の前にやって来た。実家は全く変わっていない。両親はどんな顔で迎えてくれるんだろう。楽しみだな。 「ただいまー」 「おかえりー」  駿平の声に反応して、母がやって来た。母はエプロンを付けている。 「1年ぶりの故郷だ」 「疲れたでしょ? ゆっくりしていきなさい」 「はい」  母の優しい声に甘えて、駿平は2階の部屋に向かった。2階の部屋は高校を卒業するまで使っていた。あれから全く使われていないが、いつ帰ってきてもいいようにそのままになっているだろう。  駿平は2階の部屋のドアを開けた。あの時と全く変わっていない。すでに大掃除を終えていて、とてもきれいだ。駿平は懐かしい気持ちになった。 「あー疲れた」  駿平はベッドに横になった。東京での忙しい日々で、駿平は疲れていた。だけど、実家では何もしなくていい。ただ、ゴロゴロするだけだ。年末年始っていうのはそういうものだ。駿平は心の中で思っていた。  駿平はいつのまにか寝ていた。よほど東京での生活で参っているのだろう。だが、ここは実家だ。ゆっくりすればいい。  駿平は目を覚ますと、部屋が暗い。もう夜のようだ。こんなにも寝ていたのか。駿平は驚きつつ、よほど疲れがたまっていたんだと思った。 「もう夜なのか」 「駿平、今日は久しぶりに居酒屋に行こうか?」  と、下から父の声がした。いつもは家で晩ごはんなのに、どうしたんだろう。たまには3人で飲みたいと思ったんだろうか? 「うん!」  駿平は父からの誘いに乗って、居酒屋に行く事にした。行こうと思っていなかったけど、父に誘われたのだから、行きたいな。両親と飲むなんて、初めてだ。  3人は実家の近くの居酒屋にやって来た。居酒屋には3人1組が並んでいた。おそらく空席がなく、順番を待っているのだろう。 「ここに行くの、久しぶりだなー」 「そうでしょ?」  3人はその後ろに並び、呼ばれる時を待っていた。少し遅れるけど、何にも問題ない。程なくして、前の3人1組が店に入った。  10分ぐらい経って、1組の客が席を出た。いよいよ自分たちの番だ。 「3名でお待ちの山本様」 「はい!」 「こちらへどうぞ」  3人は店に入った。店には会社の同僚や、家族がいる。みんな、今年の飲み納めに来ているんだろうか? 「こちらでございます」  3人はテーブル席に座った。テーブルや座席は木製で、少しレトロな雰囲気だ。 「お飲み物はどうなさいますか?」  駿平は決めていた。お酒を飲む時はたいてい生中からだ。 「生中で」 「俺も」 「私も!」  両親も生中だとは。気が合うな。 「生中3本ですね! かしこまりました」  店員は厨房に入った。駿平はその様子を見ている。ここで飲むのは初めてだ。どんな味だろう。楽しみだな。  程なくして、3杯の生中を持った店員がやって来た。 「お待たせしました、生中です」  3人は生中を手に取り、乾杯の構えをした。両親と乾杯をするなんて、もちろん初めてだ。 「カンパーイ!」  3人は生中を飲み出した。今年1年、いろいろあったけど、来年はもっといい年にしたいな。 「久々のここでのお酒はうまいなー」 「そうでしょ?」  と、そこに1人の男がやって来た。小中学校時代の同僚、哲也(てつや)だ。 「あれっ、駿平じゃないか!」  その声で、駿平は振り向いた。駿平は驚いた。まさかここで再会するとは。 「あれっ、哲也くんじゃないか? まさかここで飲んでるとは」  哲也も驚いた。まさか、駿平はここで飲んでいるとは。 「ああ。久々にここで飲もうかなと思って」 「ふーん」  だが、哲也の顔は浮かれない。何があったんだろう。悲しい知らせがあったんだろうか? 「どうしたの?」 「亮(りょう)くん、亡くなったって知ってるか?」  それを聞いて、駿平は驚いた。亮も小中学校時代の同僚で、とても親しかった。まさか死んでいたとは。まだ若いように思える。何かあったんだろうか? 「えっ、本当?」 「ああ。今年の夏、がんで亡くなったんだ」  哲也の顔が浮かれないのは、亮の死が原因だ。とても親しかった友人が亡くなったのが、今でも信じられない。  まさか、亮ががんを患っていたとは。全く知らなかった。駿平は絶句した。 「そうだったんだ。初めて知った」 「がんを患ってるって、誰にも話さないでくれと言ってたらしい」  亮は、みんなに迷惑をかけたくない、力強く生きてほしいと思い、がんを患っているのを誰にも言おうとしなかった。がんで亡くなったと知った時、身内はみんな驚いたという。 「そうだったんだ。俺も知らなかったよ」 「亮くん・・・。まさかこんなに若くして死ぬなんて」  哲也は泣きそうになった。もっと生きてほしかったのに。こんなに若くして死んでしまうなんて。とても信じられないよ。 「俺も信じられないよ。ちょっと早すぎるだろと思った」  駿平も信じられない表情だ。あまりにも早すぎるだろう。まだ30代後半なのに。どうしてこんなに若くして、がんで死んでしまうんだろう。 「だけど、それを受け止めないと。そして、再び前に進まないと」 「葬儀に行きたかったのにな」  哲也は思っていた。葬儀に行きたかったのに、葬儀は近親者のみで行われたという。小中学校の同級生はみんな、葬儀に招待されなかったという。 「行きたかったのにな」  駿平も同感だ。葬儀に行って、最後の別れをしたかったのに。死すら知らずに別れてしまった。もっと一緒にいたかったのに。最後の別れをしたかったのに。でも、それが亮の望んでいた事だ。しっかりと受け止めなければならない。
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