杉並洋一の発見

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杉並洋一の発見

 僕が三十分ほど、花見をしながら場所取りをしていると、今度は違う男性に声をかけられた。 「すみません。場所を譲ってもらえないでしょうか?」  男性は大型のビデオカメラを持っていて、テレビ局の人らしい。全く面白くない人生をしている僕は、この機会を逃したくなくて、テレビに出演できないかと交渉した。  すると男性がしばらく渋っていたけど、やがて電話をかけて僕にエキストラの仕事をさせてくれることになった。僕は舞い上がるほど嬉しくて、花見の場所を男性に譲った。  花見の良い場所は他に二つもある。移動すれば問題ないことだ。  でも有名なアイドルの磯村さんが他の地点にいて、その場所だけは行ってはいけないと釘を刺された。僕は残りの一つの場所に行った。  すると僕にさっき話しかけてきた屈強な男が、桜に隠れながら住宅街をカメラで撮影しようとしていた。この男は僕に断られて違う場所を取ったんだな。怖い見た目の割に、よっぽど花見が好きなんだと思った。  でも、様々な疑問が浮かんできた。男は眉間に皺を寄せて、獲物に噛み付く狼のような凄みがある表情をしている。男がシャッターを今にも押そうとしていた。 「あのー先程、お会いした者ですが、場所を譲ってもらえませんか?」  その瞬間だった。カメラが光ると鋭い音がして、弾丸が桜の木を穿った。  僕は口をぽかんと開けて驚いた。何が起こっているのかわからなかった。ただ、男が持っている物がただのカメラでないことだけはわかった。
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