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 どんどんと強く扉を叩く音に、僕は飛び上がるほどに驚いた。テレビも点けていないのに、いったい何がうるさかったんだろう。足早に玄関へ向かい、こわごわドアスコープを覗く。  そこに認めた姿に、僕は急いで鍵を回してドアを開けた。  真っ赤な顔の未玖が、僕を見て「よっ」と軽く片手を上げた。 「聞いてよ冬哉ー。先輩彼女いるんだって。知らなかったー」  うわーんと泣き真似をしながら玄関に転がり込んでくる。どこかの居酒屋でやけ酒でもあおっていたんだろう。弱いくせに酒を飲みたがる彼女は、すぐに顔が真っ赤になる。 「お腹空いたー! もうなんでもいいから作って! 全部食べるから!」  深夜であることを思い出して慌てて自分の口をふさぐ未玖は、文句を言わない僕を見上げてきょとんとする。どうしたのとその唇が動くのに、僕は人生最大の勇気を奮う。  僕が口にした言葉に、未玖の目が潤んだ。これは酒のせいなんかではない。さっきまで僕が流していたのと同じものが、彼女の頬を伝って零れ落ちる。  全てが壊れてしまうとしても、これ以上僕は僕を誤魔化さない。あのナポリタンはすっかり皿から消え去った。言い訳をして自分を騙す僕は、もういない。  ――これからもずっと、君のために料理を作りたい。  冬哉らしいねと未玖が笑うので、僕も笑顔を返す。彼女の頬に残る涙を、指先でそっと拭った。
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