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「おーい、できたぞ」  皿を持って部屋に入ると、未玖は待ってましたと手を叩いて身体を起こした。寝転がってテレビを眺めつつスマホをいじっていた彼女は完全にくつろぎモードだ。それでも食事の時はテレビのスイッチをきちんと切るので、育ちがいいのか悪いのかわからない。  二枚の皿には二対一の割合でそれぞれナポリタンが載っている。多い方を彼女の側に置き、ついでに麦茶入りのグラスも運んでやる。「さんきゅー」と彼女はやかましい歓声をあげた。  手を合わせるのももどかしく、彼女はさっさとフォークで料理をすくい、口いっぱいに頬張る。「んー!」と沸騰するやかんのような甲高い声を上げて目を細める。  この顔を見ることが僕の楽しみの一つだなんて、言えるわけがない。 「おいしー! めっちゃおいしい! 冬哉、店出せるよこれ!」  ばくばくとナポリタンを口に運びながら、右手の親指をぐっと立てる。僕は嬉しさににやけそうな顔を敢えて苦笑に変え、自分のナポリタンをぼそぼそと噛みしめる。口元にケチャップがつくことも厭わない彼女は、実に幸せそうな表情だ。  大学の同じ学部で知り合い意気投合した僕らは、いつの間にか何でもない時間を一緒に過ごすようになっていた。大胆で大ざっぱな未玖と、実は慎重派で小心者の僕は、何故か波長があったのだ。真逆だからハマったのかもしれない。そして二回生の今、僕は一歩先に踏み出せないまま、この時間を満喫している。 「冬哉はなんでも料理上手だけどさ、ナポリタンは特にさいきょーだよね」 「最強ってなんだよ」 「おいしさの秘訣は?」 「別に。……強いて言えば、ケチャップましましってところかな」 「ほうほう、秘訣いただきました!」  ぱちぱちと拍手する彼女は、あっという間にナポリタンを平らげた。ティッシュを手渡して口周りを拭くよう促し、僕はゆっくりと自分のフォークを口に運ぶ。 「実はさ、冬哉に聞きたいことがあってさ」  僕は今の幸福が永遠に続くと思っていた。短絡的に信じていた。 「正樹(まさき)くんて、彼女いるの?」  正樹とは、僕の友人の名前だった。
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