花より推し

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受付の男性に断って春くんを探しに行くことにした。 そうは言っても、あてなんかない。 見知らぬ街で久しぶりに会う人を見つけるのは、ウォーリーを探すよりも大変だ。 「どうする?」 「さっきメッセージは送ったんだ。SNSをチェックしてみっか」 春くんのアカウントを片っ端から覗いてみる。 事務所の名前と自撮りした写真も載せられている。 何があったんだろう 情報の発信地。 何でもそろって何でも手に入る。 田舎者の私たちにとって、東京は憧れの場所だ。 いろんな夢が行き交って、だからその分、失望や絶望の数も増える。 「お兄ちゃん、結構あちこち行ってんな」 「うん」 流行りのスポットや人気のカフェの写真が、毎週のように投稿されている。遊んでいるみたいだけど、これもファンサービスのひとつだし、裏を返せばそれだけ時間をもて余しているということ。 きっとレッスンにも大学にも、真面目に通ってるはず。それなのに、自分のやりたいことが見つからないのは、もどかしいだろうな。 どんな気持ちで UPしたんだろう… 「これ、さっき見たカフェじゃんね?」 咲希の指先にはカラフルな看板が写っていた。 そう言われれば見たような気もするが、チェーン店かもしれない。同じ場所だとしても、彼が今そこにいるとは限らない。 通知音が鳴った。 春くんのアイコンが、彼の投稿を告げた。 「春くんだ」 私は慌てて確認する。咲希も私の手元を覗き込む。 「これって…」 「「金色のうんこだ!!」」 私たちは声を揃え、思わず口にしたワードに遅まきながら辺りを見回した。 その愛称で呼ばれる巨大なオブジェは、浅草にある。本当は炎をイメージして作られた金色のフォルムは風にたなびいているような形で、ビールを注いだジョッキを模した社屋ビルと並んで、有名なアイコンになっている。 これは春くんのメッセージだ 俺はここにいるから 会いに来てよって 『うんこを右に曲がってください』 昔、両親がテレビで見ていた映画を思い出した。 道に迷ったタクシードライバーが会社に電話すると、月の位置と目印になるものを聞かれる。会社への帰り道を伝えるその台詞に、小学生だった私たちはげらげらと笑い転げたものだ。 ゲームをしながらだったから、その台詞以外は忘れてしまっている。だけど、映画の中の話だとしてもあんな方向音痴でも何とかなるなら、世の中捨てたもんじゃない。それだけは覚えている。 そうだよ 春くんならきっと出来るから 彼に伝えなきゃ
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