花より推し

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「どんなお仕事?」 「戦隊ヒーローの準レギュラーなんだけど…」 「えっ、凄いべさ。何でダメ?」 咲希も身を乗り出してきた。 「いや、まあ、さすがに戦隊のメンバーに入れるとは思ってねえけどさ。田舎から出てきた青年の役で、バリバリ訛ってんのよ」 どうやら物語の核にも絡む人物らしいのだが、三枚目の役どころらしい。おまけに方言丸出しだから、ネタキャラの立ち位置だ。 三枚目はまだいいのだと春くんは言った。 「こっち来て、初めは気にしねで訛って話してたのよ。だけど先輩にすっげえ笑わっちゃ時があってさ。それから何か上手ぐ喋れねぐなって…」 私は福島を出たことがないから、春くんの気持ちはすぐにはわからない。だけど、地元での会話はみんな方言で、それが当たり前になっている。急に標準語でなんか話せない。 「…方言なんて、見ぐせべ?」 春くんは苦笑いで私の顔を覗き込んだ。 カッコ悪い。恥ずかしい。 その気持ちはわかる気がする。 関西弁や九州弁なら、何となく東京でも市民権を得ているような気がするけど、東北の訛りはどうしても笑いに結びつく。三枚目の田舎者が東北弁なのも、やっぱりそういうイメージがあるからなんだろう。 「…さすけね(だいじょうぶ)」 私がお祖母ちゃんの口癖を呟くと、春くんが少し怒ったような顔になる。あまり見たことのない表情に、私は怯みそうになるけど、どんな顔でも推しは愛おしい。筋金入りのファン、なめてもらっちゃ困る。 「まーた、他人事だと思ってよ」 「ほんでも、これはチャンスだよ」 「チャンス?」 「んだで(そうだよ)。イケメンで訛ってるなんて、春くんにしか出来(でぎ)ねもの」 笑われるとわかってやるのだから、躊躇もするだろう。だけど方言で喋るのは、ホントの自分を出すことだと思った。役どころだけでなく春くんの魅力が伝わるような気がした。 「けっぱって(頑張って)振りきれたら、ぜってえバズるって」 春くんはぽかんとして私の顔を見ていた。 綺麗な瞳に見つめられて、私はだんだん恥ずかしくなってきた。 あっぱぐち(ぽかんとした顔)ですら カッコいいもんな… 「し、したってさ、勿体ねえべ。練習しねでもすぐ出来んだから。福島にいる時みでに喋ればいんだもの」 しばらくして春くんが呟いた。 「…んだな」 「んだで。俺は田舎もんを演じてるって思えばいんだよ」 「わがった。恵那ちゃん、どうもな(ありがとう)!」 春くんがぱあっと笑った。 あー 推しの笑顔っつーのは やっぱ尊いわ
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