花より推し

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「ほっとしたっけ、腹へったな」 清々しい顔で春くんが伸びをした。 「もうお昼だね」 「じゃあ、みんなで食べっぺな。お弁当預かってきてっがら」 「恵那、ずっと持ってたのけ。重がったべ」 「したって、コレを渡すのも目的でしょ」 ピクニックに来たみたいでわくわくする。 福島じゃ桜は入学式よりも後だから、一足早いお花見気分だ。 花壇の縁にみんなで座ってお弁当を広げた。通りすぎる人がちらちら見ていくけど、四人でいたら恥ずかしさも薄まる。咲希は瑞季くんの隣に座っているから、必然的に私と春くんが並ぶことになった。 「俺も食べていいの?」 「はい、コレ」 瑞季くんが遠慮がちに聞くと、咲希が答えるようにおにぎりを手渡した。タッパーのふたを開けてみると、四人分でも多いくらいのおかずが詰められていた。 「おにぎりの中身が何だかわがんねな」 「貸してみ」 春くんがラップの上から何やら確かめている。 「こっちがシャケで、こっちがチーズおかか」 「何でわがんの」 「母ちゃんの印があんだ」 春くんは嬉しそうにラップをはがして、おにぎりにかじりついた。写真ではとても大人っぽく見えるのに、その顔は小学校の遠足で見た無邪気な笑顔と同じだった。 から揚げも卵焼きも味がしっかりついていて、空腹を抱えた私たちはあっという間に食べてしまった。 「ごちそうさま」 「母ちゃんの弁当、久しぶりだな。やっぱ、んめ(旨い)わ」 風がそよそよと吹いてきて、桜の花びらがこぼれてくる。花壇にはビオラとチューリップが色とりどりに咲いていた。公園にはオオイヌノフグリとタンポポも見えるし、ぽかぽかの陽気は柔らかくて眠りを誘う。花も綺麗だけどお弁当も美味しかったし、何よりも微笑むイケメンが隣にいる。 幸せだなぁ… 「あれ」 気がつくと咲希と瑞季くんの姿がない。 二人でどこかに出かけてしまったらしい。 通知音が咲希からのメッセージを知らせた。 『お互い楽しもうね。また後で』 自然に頬が緩んでくる。 「恵那ちゃん。なした?」 「ううん。何でも」 もしかして 気を利かせてくれた? 「あいつら、どこさ行った。瑞季の奴、何考えてんだ」 急にお兄ちゃんの顔に戻った春くんに笑いがこみ上げて、私はどさくさに紛れて彼の腕を取った。 「泊まる場所はわがってっから。うちらもどっか行こ? 春くん、案内してよ」 「おし。行ぐべ」 どんなに訛ってたって 推しはいつだってサイコーだ 春くんは私の大好きな笑顔で嬉しそうに歩きだした。 思いきって繋いだ手が温かくて、私はふわふわドキドキが止まらなくなる。 だって、私の言葉が推しを笑顔にして、それを今だけは独り占めだから。
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