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曲がクライマックスに差し掛かる直前に、大きな岩の影から何かが飛び出してきた。
雪のように真っ白な体毛のウサギだった。
正しくは、ウサギに似た魔物である。
通常のウサギと違い、その魔物は長い耳の部分が翼のようになっていて、飛ぶこともできた。
魔物の右の耳の根元には金色のリングが嵌まっていて、リングには赤く丸い石がついている。
彼こそが――性別は不明なため、ひょっとしたら彼女かもしれないが――リナリアが『アルル』と名付けたウサギ型の魔物。
一般的に魔物は凶暴で、人や動物を襲う習性があるが、アルルは違った。
アルルは夜毎リナリアの歌を聞きに来て、リナリアが歌い終わると決まって一輪の花を贈ってくれた。
信じがたいことに、アルルは敵意の欠片もない、非常に友好的な魔物なのである。
この日もアルルは口に一輪の花を咥えていた。
茂みから出てきた身体のあちこちに葉っぱや草がついているのは、リナリアの歌声を聞き、急いで駆けつけてきた証拠だ。
「!!」
リナリアはアルルの登場に歓喜して歌を止めようと思った。
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