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「だって、お父さま。私はお父さまの言いつけ通り一年も歌のレッスンに励み、苦労に苦労を重ねて王太子の妃という、女ならば誰もが羨む栄光の座を掴んだのですよ? それなのに、ご覧の通り、ウィルフレッド様は亡くなってしまいました。こんなの、あんまりではありませんか。私は幼いころから努力を怠りませんでした。全ては誰よりも美しく輝く王妃になるためです。ウィルフレッド様の妃として選ばれ、王宮で妃教育だって受けてきたのですから、私には次の王太子の妃となる権利があるはずです」
「…………」
「デイジー様……普通は、婚約者を失った直後に『次』を求めたりはしないんですよ」
アーカムが絶句している間に、女性の声が滑り込んできた。
中庭の土を踏み、歩いてきたのはクロエだ。
長く伸ばした髪で半分顔を隠し、背中を丸め、俯き加減に歩く陰気な侍女を見て、誰かが小さな悲鳴を上げる。貴族の中には露骨に眉を顰める者もいた。
そういった反応には慣れているらしい。傷ついた様子もなくクロエはデイジーの傍に立った。
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