それはまるで夢のように

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(たとえ生じた問題が人の手に負えないものであっても、デイジー様にとっては心底どうでも良いことなのでしょうね。もし《予言の聖女》の予言通りにフルーベル王国が滅びるなら他の国に行けば良い。『次』の場所で新たに信奉者を増やし、己が望む理想の楽園を築けば良いと思っているに違いないわ)  デイジーは王妃になることを望んでいるが、王であれば相手は誰であろうと構わないのだろう。  彼女には愛国心がない。  他人に対する敬意も思いやりもない。  彼女に在るのは強烈な自己愛と承認欲求と虚栄心。ただそれだけだ。 「……クロエ、一つ聞く。メノンの遺書に書かれていた『王妃殿下』というのはなんだったのだ? ロアンヌのことではなかったのか?」  テオドシウスが眉間に深い縦皺を刻んで聞いた。 「はい、第二王妃ロアンヌ様のことではありません……デイジー様のことです。あの遺書には『未来の』という肝心な言葉が抜けておりました。デイジー様の存在を仄めかしては迷惑がかかる……それを厭い、わざと言葉を省き、罪をロアンヌ様に着せようとしたのでしょう……」 「だから、私は本当に何も知らないのよ? メノンが勝手に行動しただけなの。そんなのにこんなことになって……良い迷惑だわ」  デイジーは額を押さえて嘆いた。 「大体、メノンがどんな遺書を残そうとどうでも良いでしょう? 彼は卑しい平民だもの。平民とは、貴族のために奉仕する働きアリ。つまり、」  問題発言に貴族たちがどよめき、それを見てデイジーはまた困った顔をした。
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