『宝物』

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『宝物』

「あー、疲れた」  午後十時過ぎ。《百花の宮》の居間にて。  王宮から帰ってきてすぐにイスカは人払いを済ませ、《変声器》を外してリナリアの隣に座った。  向かいのソファに座ったイザークも疲れ切ったような顔をしている。 「やっぱり、怒られてしまいましたか」  リナリアは予め侍女が用意してくれていたティーポットを取り上げ、注いだ紅茶を二人に配った。 「ああ。いくら陛下のお許しが出たとはいえ、あの茶番劇はどういうことだ、王太子を毒殺するなど洒落にならないだろうと、ネチネチした意地の悪い説教をたっぷり一時間は食らった」  紅茶を飲みながら、イスカは渋い顔をした。 「お疲れ様でした……イスカ様だって好きでやったわけではありませんよね。全てはデイジーを盲信していたウィルフレッド様のためにやったことなのに」  クロエから話を聞いた後、イスカは秘密裏にウィルフレッドを呼び出して伝えた。デイジーはこれこれこういう人間だから、愛するに値しない、と。  すると、ウィルフレッドは怒った。  デイジーは誰よりも美しく、誰よりも優しく、慈愛に満ちた素晴らしい女性だ。
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