『宝物』

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「デイジーの企みに加担し、悪事に手を染めた者たちは片っ端から捕まえて牢に入れました。現体制に不満を持ち、密かにデイジーの企みを後押しした貴族たちも尋問中。一連の事件はもはや解決したも同然です。そろそろ正体を明かしても良いのではないでしょうか?」 「あの、イザーク様、誰と会話を――」 「――そうですね。もう私が陰から守る必要はないでしょう」  少年の高い声で返答があった。  本棚の前の空間がぐにゃりと歪み、お仕着せを着たアンバーが姿を現した。  驚いている間に、アンバーはにこりと微笑んだ。  もう一度ぐにゃりと空間が歪み、アンバーの姿も歪む。  次に空間が正常な姿を取り戻したとき、そこにいたのはアンバーではなく、大人の色気漂う中年男性だった。  金色の髪。琥珀色の目。きりりと引き締まった精悍な顔立ち。 「この姿では初めましてだな、リナリア」  美しい中年男性は、美しいバリトンボイスでそう言った。 「……アンバーの正体はお父さまだったのですか! 初めまして、リナリアです!!」  リナリアは唖然とした後で立ち上がり、頭を下げた。予期せぬ事態に心臓がバクバク音を立てている。
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