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「わかってる。あとはおとなしくセレンを演じるつもりだ……それはいいとして、なんでセレンには敬称をつけるのにおれには敬称をつけないんだよ。前から思ってたんだが、ジョシュアはおれに敬語を使わないよな。誰もが崇める宮廷魔導師団長様にとっては、金も地位もない名無しの王子なんて敬意を払うに値しないと?」
どうやらイスカは以前言われたことを少々根に持っているらしい。拗ねたような言い方だった。
「将来君は娘の夫になるのだろう? ならば、少し気が早いが君は私の義理の息子だ。息子扱いが嫌だというのなら態度を改め、王子としてきちんと敬うが」
「……息子……」
イスカは当惑したように呟いた。思ってもみなかった言葉だったらしい。
「……いや。そういうことなら……突っかかって悪かった。そのままでいい」
イスカは俯き、小さな声でそう言った。
傍らでやり取りを見ていたリナリアは、胸が締め付けられる思いだった。
イスカは多分、父親に――テオドシウスに息子として愛されたことがない。
(後でジョシュア様に思いっきりイスカ様を甘やかしていただくようお願いしよう)
密かに決めつつ、リナリアは切り出した。
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