『宝物』

10/38
前へ
/277ページ
次へ
 即決し、三人で頷き合っていると、イスカが噴き出した。 「『とりあえず』で人を半殺しにするなよ。半殺しって、どういう意味かわかってるのか? ほとんど死ぬ、それくらい酷く痛めつけるってことだぞ?」 「いえ、イスカ様を魔物にしたのですから、それくらいの報いは受けてもらわなければ困ります」 「全くだ」  首肯するジョシュアを見て、イスカは少々困ったように、それでも本当に嬉しそうに笑った。    ◆   ◆   ◆  ロータムは隣国セルディアとの国境近くにあるフルーベル有数の温泉地だ。  大抵の宿が源泉から湯を引いている。その日イレーネが泊まった宿は、客引きによると『泉質が自慢の源泉かけ流し温泉宿』らしい。  星が空に輝き始めた夜。  イレーネは竹林に囲まれた部屋付きの小さな露天風呂に浸かり、目を閉じていた。 「いい湯だ……」  さわさわと揺れる竹の音を聞きながら悦に浸っていると、 「イレーネ様!!」  室内と室外を隔てる扉が物凄い勢いで開き、カミラがやってきた。 「なんだ。せっかく人が噂に違わぬ極上の温泉を堪能しているというのに、無粋だな。私はいま裸なのだぞ?」
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加