家を追い出されました

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 みなが寝静まった夜には、こっそり屋敷を抜け出して裏手の森で歌った。  喉を痛めつけ、医者から制止されるほどに歌い続けた。 「……申し訳ございません」  リナリアは焦げ茶色の髪を垂らして頭を下げた。  ――お養父(とう)さま。私は二次審査直前に毒を飲まされ、棄権せざるを得なかったのです――  などと、弁解したところで意味がないことはわかっている。  リナリアが何を言おうと、王子妃になれなかった現実こそが全てだ。 「養子縁組は解消した。私にとってお前はもはや娘でも何でもない、赤の他人だ。荷物をまとめて今日中に出て行け。いますぐに叩き出さないことを最後の慈悲と思うんだな」 「……はい。一年間、お世話になりました」  これが最後の挨拶になる。  せめて最高の挨拶をしようと、リナリアは背中を伸ばしたまま左足を斜め後ろに引き、右足の膝を曲げた。  これまでで最も美しいカーテシーが出来たと思ったのだが、チェルミット男爵は書類にサインをしているだけ。  既に彼にとってリナリアは見えない、いない者となってしまったのだろう。  リナリアは意気消沈して執務室を出た。
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