家を追い出されました

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(……でもなあ。その『なんの魔法も使えない無能で卑しい平民風情』を孤児院から連れ出して、王子妃になれと強制したのはあなたのお父さまなのだけれど……)  その思いは口に出さない。  容赦のない平手打ちをされるのはご免である。  実際に、ヴィオラの平手打ちは痛い。  この屋敷で暮らした一年間、何度も打たれたのだから身に染みてわかっている。  それからしばらくリナリアはヴィオラにネチネチいびられ、出立の足止めを食らったのだった。  ようやくヴィオラから解放されたときには陽が沈みかかっていた。  部屋に残っていた全ての私物を詰めてもまだ余裕のあるトランクケースを引いて、リナリアはチェルミット男爵邸を出た。  去り際、パンジーにはもう二度とこの屋敷に近づくなと罵声を浴びせられた。  釘を刺されるまでもない。  一年近くにも及ぶ『地獄のような淑女教育と歌のレッスン』と『ヴィオラとパンジーの奴隷役』を止められて、実のところ、リナリアは清々していたのだ。 (これで見納めね)  固く門が閉じられた男爵邸を眺めた後、リナリアは一礼してから歩き出した。
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