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不安に駆られ、きゅっと唇を引き結ぶ。
五分ほど歩くと、開けた場所に出た。
大きな岩が中央にどんと鎮座した場所だ。
この岩のせいで木々は根を張ることができず、ここだけぽっかりと開いたようになっている。
「…………」
リナリアはトランクケースから手を離して大きく息を吸った。
リナリアが歌の自主練習のためにこの森を訪れるのは決まって夜――それも日付が変わった深夜だった。
こんなに早い時間にあの子が気づき、さらにわざわざここまで来てくれるかどうかは賭けだ。
(私がこの森に来るのは、これで最後なの。どうか私の声に気づいて、アルル)
どうしても、リナリアはアルルに――この一年間、影ながらずっと励ましてくれた唯一の存在に会いたいのだ。
リナリアは伸びやかな声で歌い始めた。
アルルに届くように、大きな声で。
パン・パン!
素早く二度手を叩く幻聴がする。
歌の指導をしてくれたカウセル夫人は厳しかった。
若い頃は王都の大劇場で歌劇の主役を務めていたというカウセル夫人は、リナリアが少しでも音程を外すと顔をしかめ、手を叩いて歌を中断させた。
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