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――音がずれてるわ、もう一度。
もっと高く、声を伸ばして! もっと大きな声で! 情感を込めて!
パン・パン! もう一度!
正確なリズムで、正確な音程で、譜面通りに正しく歌うこと強いるあの耳障りな音はもうない。
リナリアは自由だ。
少しくらい音程を外しても文句を言う人間は誰もいない。
だから、リナリアは森中に響くことを願って、自分が出せる最大の声量で歌った。
(お願いアルル。ここへ来て。私に会いに来て。あなたがいてくれたから、私は今日まで耐え抜くことができたのよ。私はあなたにお礼を言いたいの。お願い。この歌声が聞こえたのなら、いますぐにここに来て!)
祈りを歌とし、全力で放つ。
リナリアの歌が終わっても、森はしんと静まり返っていた。
森に落ちる影は歌う前よりも濃くなっている。
一刻も早く森から出たほうが良いのはわかっていたが、リナリアは深く息を吸い、もう一度同じ曲を歌い始めた。
この曲は初めてアルルと出会ったときに歌った記念すべき一曲。
アルルの反応からして、アルルが一番気に入っていた曲だと確信している。
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