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『それはつまり俺のことが超好きっていう風に聞こえるんだけど、どう思う?』
『どうかしら。ひとの顔を見てお腹が空くなんて、食い意地が張っているなって思っているわ』
『俺はアンバーに美味しいものを食べさせたくて仕方がなかったのに?』
『わたくしに、食べさせたい?』
『いつだったか、学校が休みの日に学外でアンバーを見かけたんだ。友だちと一緒にプリンを食べながら、笑っていた』
『全然覚えていないけれど、別に特別な状況ではないわよね?』
まったく何も覚えていないけれど、プリンを食べていたというのなら妹の話でもしていたのかもしれない。プリンは、可愛い妹の大好物だから。
『その顔をもっと見たいと思った。できるなら、独り占めしたいって』
『学校にいればいつだって見れるわよ?』
『全然違う顔だったよ。あんな可愛い顔、学校で見たらみんなが恋に落ちちゃうから大問題だと心配になった。それでちょっと調べてみたら、アンバーってば食事は携帯食料やらポーションで済ませていて今度は別の意味で心配になったよ』
『あら、ごめんなさい』
『俺がどうしてアンバーを食事に誘い続けたかわかってる?』
『えーと、いろいろ心配だったから?』
『心配の意味が違う気がするなあ。しっかり者でしたたかで数字にも強いのに、すごく繊細で可愛いの。俺はね、周囲に牽制をかけてたの。他の人間が誘っても、アンバーは食事に行かないでしょ。俺と一緒の時だけ、カフェテリアに入ってくれる。それがどれだけ嬉しかったかわかる?』
『えーと』
『俺、アンバーのことが好きだよ。だからアンバーの近くで働けるなら王宮騎士じゃなくてもいいやと思って直談判したのに、契約結婚みたいな書類を出してくるし。そうとわかっていたらちゃんと告白からのプロポーズをしたのに。逆玉目当てだって思われるのが嫌だとか、弱気にならなきゃよかった』
『あら、今からでも遅くないわよ? そもそも、あなたこそ本当にわたくしでいいの? わたくしはいわゆる守りたくなるようなか弱くて可愛らしい令嬢とは違うわよ。転んでもただでは起きないのだから』
『転んでも前を向いて立ち上がる君が好きだよ。妹さんのことだって、君はご両親の分まで愛している。自分に与えられなかったものを、妹に惜しみなく与えている君は本当に強くて立派だ』
やっぱりレーンは我が家の事情を耳にしていたらしい。けれど恥ずかしさよりも、よく頑張ったと褒められたことが無性に嬉しくて、そしてなんだか泣きたくなった。
『そんなの家族なら当たり前よ』
『その当たり前ができないひとは、世の中にいくらだっているよ。だから、君が妹さんを愛してきた以上に、俺に君のことを愛させて』
『契約結婚であなたを縛ろうと思っていたわたくしが言うのもなんだけれど、あなた愛が重くなくって?』
『でも、アンバーはそういう俺のことが嫌いじゃないでしょ?』
『残念ながら、かなり好きだわ』
『じゃあ、全然問題ないってことで。ねえ、アンバー。キスしていい?』
『そういうのは、聞かずにやってちょうだいな』
初めてのキスは、その日の昼食のデザートよりも甘かった。
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