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「あら、やだ。ちょっとドレスが苦しくなったような。あなたと一緒にいると、何を食べても美味しく感じてしまうから危険だわ」 「それは俺のことが大好きって意味でいいんだよね? いやあ、いつ見てもアンバーは()()()()()だなあ」  するりとこちらに伸ばしてきた不埒な手を軽くつねってやる。その反応さえも予定通りと言わんばかり。 「それで、御義父上の説得はどうするつもりなの」 「説得も何も、このまま納得してもらうだけよ。だってこれ以上何かを説明しようにも、他に言いようがないわ。『結婚の決め手? 彼の笑顔を見ているとわたくしのお腹が空くからですけれど、それがなにか』ってね。それにもしも反対されるということでしたら、貴族籍を抜けさせてもらうわ。ただし、我が家の商会はわたくしが屋台骨。目利きのわたくしとわたくしに従う昔気質な職人たちが抜けたらどういうことになると思う? 書類上はともかく、実質的な当主はもう完全に交代しているようなものなの。学園卒業後数年間、あなたと結婚するために頑張った甲斐があったわね」 「俺もいっぱい武勲を立てたし」 「ええ、さすがわたくしの夫になるひとだわ」 「アンバー!」  く、苦しい。感極まったのか、レーンに抱き着かれてしまった。ちょっと、離れなさい。いや、そういう仲だと一目瞭然なのはわたくしたちに有利に働くかも? いいわ、どんどんやっちゃいなさい。  それからしばらく後に夫となったわたくしの愛しいレーンは、今も昔と変わらない笑顔で隣にいてくれる。ああレーンの顔を見ているとやっぱり不思議なくらいお腹が空くの。さあ今日の夕食は、みんなで何を食べましょうか。
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